第14話 否定

 発表される時刻は、午前中で唯一長針が短針に追い付かない頃。

 みらいはパソコンの前にチョコンと座り吉報を待つ。否、吉報を待つもなにも吉報が来ることは確定している。

何回、秒針が一周しただろうか。ついに、その時が来た。

「はっ、サイトが更新されてますわ!」

 サイト更新されたことに、一瞬戸惑いながらもみらいは自分の番号がないか探していく。

 上から順番に見ていく。

 一段目……ない。

 二段目……ない。

 三段目……ない。

 上にあるほうが確認し終わり、中盤へと目を向ける。

 十段目……ない。

 十五段目……ない。

 二十段目……ない。

「……えっ。……うそ。私の名前がない」

 泣きそうな表情になるみらい。しかし、まだ終盤が残っている。ここにきっと自分の名前が載っている。そう、信じて。

 目線は、終盤へと向かっていく。

 三十段目……ない。

 三十五段目……ない。

 四十段目……ない。

 そして、いよいよラスト。ここになければ、自分はまだまだプロのレベルではないということである。失格の烙印を押されたことになる。

 ラスト。

 ……。

 ……。

 ……。

 ――ない。

「そんな」

 『落ちた』ということに気が付くまで、多少時間かかった。しかし、気が付いていても理解することはすぐにできなかった。

時間の経過とともに、徐々に頭がその事実に追いついていく。

頭が追い付いてきたみらいは、一つ疑問が頭に浮かぶ。

「なんで」

 この一言を精々口に出すのが精いっぱいであり、この一言にみらいの気持ちのすべてが詰まっていた。

「なんでなんでなんで」

 一言この言葉が出てきたら次の言葉、そして、その次の次の言葉も同じ言葉がでてくるのは、みらいにとってそれだけショックなことであることを示している。

「理由は⁉」

ハッと我に返ったみらいは、カチッカチッとマウスを動かし、自分の作品の寸評を探す。

「あった」

 見つけた。そして、そこには……。


『イラストの才能無し』

『こんな駄作を見せられて、時間の無駄だった』

『ライトノベルのキャラデザになるという絵ではない』

『この人はイラストというものを理解していない』

『低クオリティ』


「えっ……えっ……うっ……」

 みらいの口から出てくるのは、うめき声と戸惑いの言葉だけ。言葉といえる言葉は出てこない。

 私の最高傑作が。

私の魂を燃やして描いた絵が。

 私のすべてが。

 なにより、私自身が否定された。この突きつけてくる現実にどうする術もなかった。

「うっ……ぇっ……ッ!」

 まだ吐き気は収まらなかったと思えば、唐突な吐き気が来た。

 急いでお手洗いへ向かうみらい。

 お手洗いに着くと、ウォッシュレットのふたを開け、便器に顔をセットする。

「うえっ……ぅ……ぇ……ッ!」

口から出たのは、黄色い液体とさっき食べたごはん。

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 吐き出すもの出して、落ち着いただろうか。少し吐き気が収まる。

 しかし……。

「おぇ……ぉ……ぇ……ッ!」

 嘔吐くのが止まらない。

 嘔吐いてる間、みらいの眼には一筋の雫が。


 悔しい。

 悔しい。

 悔しい。


 それしか出てこない。

 気づけばみらいは、体を震わせながら嗚咽を漏らしていた。


 悔しい。

 悔しい。

 悔しい。


 ぽたぽたと涙があふれ思いが募る。

 

 これは私が魂を込めて一生懸命描いた絵。

 全身全霊で何時間もかけて一生懸命描いた絵。

 それが否定された。


「なんで……なんでわかってくれないの……。この絵のどこがダメなの」


 そして、悔しさは悲しみへと変わり、それはいつしか憎しみへと変わっていった。

 それは言葉になって表面化してきた。

「私より絵が下手なくせに! 何にも絵のことがわからない奴らに否定されたくない……!!」


 ぐっと握りこぶしを作り、その握りこぶしにぐっと力を入れる。その握りこぶしの指先は充血し、手にしわができている。


「……はぁ……はぁ……ぁ……」


 落ち着いただろうか。

 少し落ち着いてくると、急に現実が見えてきた。

 ――否定された。

 それだけが頭をぐるぐるする。

 そして。

 ――プツン、と何かが切れる音がした。

 その瞬間。

「もう無理なののかな……」から「もう無理」に変わるのには時間はかからなかった。

 

手を広げてみると爪が掌に食い込んでいる跡があった。





 

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