第5話 アニマル的存在

 カナエは無反応。エリは興味がありそうだった。


「片山先輩ってそういうのに興味あるんや」


「そ、そうや。あ、もしかしてエリちゃんも?」


「私は読むだけやから。でも小説書ける人ってすごいと思うわ」


 エリちゃんが持ち上げてくれた。これはチャンスなのだろうか?


「えー? でもWebって誰でも書けるんちゃうの? ねえ、リョータ先輩」


 カナエが俺の話題をエサにリョータに話しかける。どうやら俺には興味ないようだ。しかも微妙に下に見られている気さえする発言である。


「そうなんか? 俺は小説とか興味ないからなぁ。ユウト、スゴいんか?」


「スゴいかどうか聞かれると、分からんケド……」


 書いている側からすれば、日本語で文章を書く事くらいは誰でもできると考えている。

 ただ、カナエの様に、小説を書くことがなんて事のない様にイジられるのは、それはそれでムッとするのだが。


「リョータ先輩、小説書くのって難しいんですよ。キャラクターとか、ストーリーとか全部自分で考えなアカンし、色々大変なんですって。ねぇ、片山先輩」


 エリが、言葉に詰まる俺に助け船を出してくれた。


「お、おー。何かエリちゃん詳しいな。やっぱり小説書いてるんと違う?」


「いやー、書いてはみたものの、ダメでした」


「何が?」


「なんか、書いてて飽きちゃって」


「そーなんや」


 小説あるあるだな。妄想は膨らんだけど、書いてみると途端につまらなくなるってやつだ。

 書くスピードと妄想するスピードは当然のことながら違う。

 頭の中では、映画の予告編のように面白いところが切り取られて、妄想すると思う。

 しかし、いざ書いてみると、その書きたい映像と映像をつなぐための、文章を書くのが面倒なわけだ。


「リョータ先輩ってバスケ辞めたんですか?」


「おー、辞めたわ。帰宅部や」


「そうなんですか……残念です。リョータ先輩がバスケしてるの格好良かったんで」


 カナエはリョータとばかり話している。露骨なものであるが、分かりやすい。


「そうそう、もったいないですよ。何で辞めたんですか?」


 エリもその話題に食いついて、リョータに話しかけた。

 結局、俺のターンは終了して、後は彼女達がいかにリョータがカッコいいかの話を聞かされるハメになった。


 ◆◆◆


 そろそろ、カラオケの時間も終わりに近づく。

 せっかく紹介してくれたリョータの手前、何もしないワケにはいかない。

 こういう事を適当にすると、リョータの顔を潰す事になり、友情にもヒビが入るかもしれない。


「良かったら連絡先、交換せえへん?」


 最低限のマナーは必要である。つまりここは連絡先くらいは聞かねばなるまい。


「えー? じゃあ、どっちかにしてよ」


「そうやで。二兎追うものは一兎も得ずやな」


 正直、二人が乗り気でないのは良くわかっていた。


「ほんじゃあ、エリちゃん」


 彼女は可愛い系の女の子で、俺には手が届かないレベルの女子である。ダメ元でアタックする事にした。


「……うん。じゃあ」


 そう言って彼女は、スマホを取り出した。

 その一瞬のに躊躇を感じた俺だが、そこはご愛嬌。


「ホンマに? やったー! エリちゃんみたいな子と交換出来るなんて嬉しいわ。奇跡や」


「アハハ、おーげさや」


 はぁ、早く帰りたい。


 ◆◆◆


「ユウトさん、お帰りなさいませ」


 和装の出で立ちをした母親に迎えられ「ただいま」と答える。

 五LDKの建て売り住宅に、和装の母。違和感が半端ないが、俺の母親である一枝かずえの実家は華道の家元で、厳しく育てられた。

 言葉使いも、片山家のもの達とは違うのだが、彼女にとってはこれがデフォルトなのである。


 今は夕刻。大した手応えもなく帰路についた俺は、なんとも無駄に休日を過ごしたものだと、落ち込んでいた。

 本来なら、日がな一日【カクヨム】で小説を書いたり、ファンタジー世界について調べ事をしたりと、作家活動に勤しむ筈であった。


「はあ、疲れた……」


 俺は冷蔵庫から牛乳を取り出して、ゴクリと一口。


「ユウト兄様。直接牛乳パックに口をつけて飲まないで下さい」


 妹の美桜みおだ。中三でさっき合コンした彼女達と同じ年。


「別にえーやん。この家で牛乳飲むのなんて、俺かお前しかおらんやん」


「そ、それが問題ありだと申しているんです」


 全く、こいつは兄を汚物のように思っているのだろうか。ムカつくわー。俺は美桜の肩を後ろから抱いて「お前も飲め飲め」とパックの口を近づける。


「ち、ちょっと、兄様?! な、何を?!」


「うっさいわ!俺を アニマル的な扱いしおって。小さい頃はお兄ちゃんお兄ちゃん言って後ろからチョコチョコついて来てたやろ?」


「い、いつの頃の話をされて?! わぶっ」


 よし! パックが口に付いたぜ。俺はそのまま美桜にゆっくりと飲ませる。

 美桜は急に大人しくなった。


「どうだ。お兄ちゃんが飲ませてやった牛乳は」


「ぎ、牛乳はどの様に飲んでも同じです」


 美桜は頬を赤く膨らませて、俺を上目遣いに睨んでいる。

 こうして後ろから拘束していると、よく分かる。

 美桜も大きくなったもんだ。色んなところが。

 しかし、美桜の顔を近くで久しぶりに見たが、相当綺麗になっている。母親似なんだろう。

 前髪と襟足を真横にぱっつんにカットしていので、大正時代の大和撫子みたいだが。 

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