第4話 無駄?な合コン

 12月も中旬の事だ。俺は【告白の庭】に立っていた。

 もうすぐクリスマスだし、彼女だって欲しい。

 俺は白い息を吐く。

 震えているのは、寒いせいだけではない。

 心臓がバクバクで立っているのもやっとの事である。

 中庭の入り口から、やってくるツインテイルの美少女、織部真由菜。


「何なん? こんな所に呼び出して」


 美少女が冷たい視線を投げかけてくる。それだけで俺の心臓はギュッと締め付けられた。


「ほら、真由菜って告白されるなら、ここが良いって言ってたから」


「え? 言ってた? 」


「うん」


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「真由菜。俺は真由菜の事が好きや。やっぱり諦められへん。だから付き合って下さい!」


 俺は手を差し出した。頼む! この手を取ってくれと。


「え? でも、私はここでリョータに告白されたいなとは思うけど、別にあんたにされても仕方ないやん。それに何回来てもおんなじやし。別にあんたの事は好きじゃないから」


 俺は真由菜の言葉を呆然とした状態で聞くこととなった。 俺はなんて勘違いをしてしまったんだろう。だが、それはどうにもならない。既に告白をしてしまったのだから。


 ハハハハハハハハハハハハハ!


 何だ? この笑い声は。


 ハハハハハハハハハハハハハ!


 周りを見渡すと校舎から皆がこちらを見て笑っていた。


「ウソだろ? ここで告白したら茶化さないって……」


 ハハハハハハハハハハハハハ!


 皆が笑う。リョータも咲も。皆笑っていた。


「く、くそー。笑うな! 笑わないでくれー!」


 俺は頭を抱えて、うずくまり深く後悔した。


 ヴー、ヴー、ヴー。


 スマホのバイブで目が覚めた。


「夢やんけ……助かったー……」


 俺は鳴り続けるスマホに目をやる。

 近視でぼやけているが、目をこらすとそれはリョータからの着信だった。


「もしもし、何や?」


『寝とったんか?』


「おー、寝とった。日曜日やし、ゆっくりさせーや」


『もう十時やぞ?』


「別にえーやん。んで、何や? 何か用があってかけてきたんやろ?」


『親友とのアイドリングトークしろや』


「うっといねんww はよ、せーや」


『この前、言うとった合コン、今日あるから来いや』


「えらい急やな」


『そんなもんやろ? こっちは女の都合に合わすだけや。行くやろ?』


「えー……どうしよっかなー」


 興味はある。あるが、これが真由菜に知られたらどうなるか……。


『アホか。断れるのはモテ男だけや。どーせ何も用事ないねんからぃへんと、チャンスないで』


「確かに……」


『詳しい事は後でラインするで。それなりの格好で来いよ』


 リョータはそう言い残して、通話を切った。


 真由菜に告白して、振られたら次に行くという展開は当たり前の事なのかもしれない。

 躊躇している自分がいるのは確かだ。まだ俺は真由菜の事が、好きだし今でもたくさんの時間を彼女と過ごしたいと思っている。

 それにチャンスが、まだないとは言い切れない。

 真由菜は特定の彼氏がいないからだ。


 だが、ネットで検索すると一度交際を断られたら、それをズルズルと追わずに、自分を磨いて次の出会いを求める方が良いとあった。

 女は興味のない男に対して、後から好きになる事がないとあるからだ。

 可能性はなくはないが、一度断ると、切り捨てるのが女という生き物だと。


「うーん、あきらめられない……」


 俺は頭を抱えた。でもリョータの紹介してくれる女の子にも興味があるのは事実だ。

 真由菜に対して、一途という気持ちを持ちたいのは山々だが、持たせてくれない真由菜が悪いと、自分に言い訳をする。

 とにかく、この辛い気持ちは家にいても何ともならないのだ。


 ◆◆◆


 待ち合わせした駅前に行くと、リョータと女の子二人が待っていた。


「よお」


 リョータは手を上げて俺を呼ぶ。


「こいつら、俺の中学の時の後輩」


 ということは、明凰北中か。ちなみに俺は明凰東中学校だ。

 リョータが中三の時に中一だったというバスケットボール部の後輩だ。名前はエリとカナエである。

 現在の彼女達は中三である。年度末には受験が始まるが、まだ四月なのでそこまで切迫感がない。


「どうも、片山ユウトと言います」


 俺は挨拶した。だが、二人の女子の反応は良さそうには見えない。

 おまけに目の前で、ヒソヒソと耳打ちしている。

 俺が思うに、(リョータ先輩の友達っていうけど、イマイチやなー)(そやね)みたいな会話なんだろう。だが俺はその手の反応には慣れているので、とびきりの笑顔を見せた。


 ◆◆◆


 学生の合コンとしては定番であるカラオケに行く。


「えー?! 片山先輩って、彼女おらんの? 意外ー」


 エリという女子が驚いた感じで言うが、演技だろう。


「おう、だから、紹介したんなけどな。どう? お前ら」


「えー? でもモテそうやん」


「そうやんなー。あたしらの出る幕ないわー」


 要するに、俺とは付き合う事はないと言う意味なんだろう。


「ちなみに、こいつな、Webで小説書いとんねん」


「へー。そうなんや……」


 リョータが、言って欲しくない事を言い出した。


「ち、ちょっと!」


 俺はリョータの肩に手を回して、女子を後ろに小声で話す。


(何で、それ言うんや? 恥ずいやろ)


(別にえーやん。お前のアピールポイントやし。それに、こいつら中学やで、別にこっちの学校までは広まらんやろ。)


(それはそうやろうけど)


 確かに言われてみればそうだ。俺はちらりと二人の女子の様子を伺った。

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