第3話 告白の庭

「なあ、抜け出したはええけど、どこ行くん?」


「ん? それはユウトが考えなアカンやろ?」


「は? 咲が誘ったから何かあるんかと思っとったわ」


「別に何もないわ。でもな──」


 俺の前を歩いてた咲はパッと振り返って、


「私と二人っきりなんて、男子が喜ぶシチュエーションなんやから頑張らんと?」


 と微笑んだ。それに俺は迂闊にもみとれてしまったが、すぐに咲に対する【親戚モード指令】が発令して、沈静化する。


「……そうか。ほんじゃあ、ボーリングでええか?」


「ええよ」


 ボーリング、カラオケ、ゲーセン。

 なんて事のない定番の遊び(デートとは言ってない断じて)。

 お金は俺が全部出した。お互い高校生だし、小遣い制だから持ち合わせは少ない。


 だが、俺にはカクヨムで【リワード】が入ってくるからこれくらいの遊ぶ金はある。


【カクヨムリワード】というのはカクヨム独特のシステムである。

 広告pv数と呼ばれる閲覧数、アドスコアと呼ばれるポイントなどで、【リワード】が決まる。

 そのポイント計算方法は、俺はよく分かっていない。

 とりあえず、一話二千文字以上で書いているが、ランキングには千五百文字でも上がってくる作品があるので、その辺りどうなっているのか。

 話数を稼ぐために文字数を減らすとリワードが減るように算出されるというのだが。

 一応俺はネット調べで、二千文字から三千文字以内で書いている。

 とはいえ、これが正しい文字数なのか真相は分からない。

 つーか、カクヨム運営から理想の一話辺りの文字数を教えて欲しいよな。

 皆、それに【右倣え!】するでしょ?


 ◆◆◆


「うわー! 夕日がきれいやね」


「そうか?」


「何やねん、ユウト。こんな美少女と夕日を眺められるなんて最高のシチュエーションやろ?」


「自分で言うなよ……まあ、そうかもしれへんケド」


 ここ城公園の石垣から見える夕日。

 なんて事はない景色なのだが、きっと真由菜と見ていたら、この景色も違ったのだろう。

 ──なんて事を考えていたら、咲が俺をジト目で見ていた。


「何か、他の女の事、考えてない?」


 ギクリ! こいつエスパーか? いや、幼なじみ特有のあれか! あれだな。いや、あれとは? って聞かれても何か分からんが。


「ち、違いますよ。はは……さ、咲さんもジョーダンが上手いな。ワー、キレイナユウヒダネー」


「……(ジー)」


 更にジト目の追い討ちをかけてくる咲である。

 あれか、あれをやるか。全く気乗りしないが。俺は咲の両肩を掴んで、こちらを向かせる。


「咲の瞳に写ってる夕日が一番キレイやで」


 フッ! 爆笑やろ。地味なメガネ男子高校生のキザなセリフ!

「キモいわーwww」の返しを期待しますよ。咲さん。


「な、何言って……」


 だが、俺の予想に反して咲はボーッと俺を見ている。


「あれ? 伝わらなかった?」


「つ、伝わったっていうか……ごにょごにょ」


 何かごにょごにょ言っている。よく分からないので、俺は「そろそろ学校戻ろか?」と言うと咲はコクりと頷いた。


「なあ、何で学校抜け出そうとか、言ったんや?」


「え? それはあんたが……」


「なんや?」


「落ち込んどるなって思ったからやで? 何かあったんやろ?」


 ひえー! エスパー咲さん。

 この人に隠し事は通用しないらしい。俺ははぐらかして学校へ戻った。

 校舎につくと、当然の如く先生には怒られた。


 ◆◆◆


 数日後、休み時間に中庭を眺めていると、男子が一人そこに立っていた。

 サッカー部でも有名なイケメンエースだ。このキーワードからも分かる通り、女子憧れの男子である。女子って分かりやすいよな。


「ユウト。あれ」


 リョータが俺の肩を抱いて指差した。


「そやな。多分やな」


 しばらくすると、咲が現れた。である。

 風に乗って二人の会話が流れてくる。

 向かいの校舎も多くの生徒が固唾を飲んで、その様子を見ていた。


「小泉咲さん。僕と付き合って下さい」


「ごめんなさい」


 即答である。あんなイケメン爽やかサッカー男子を振る女の気が知れない。

 喜ぶ男子と女子達である。ここは通称【告白の庭】と呼ばれている中庭である。

 ショータイムみたいになっているが、ここで告白して茶化す奴はいない。

 高校生にとって何故か神聖な場所になっているからだ。

 あいつらが喜んでいるのは、どちらも人気の男女であるから、ペアにならなくてホッとしたのである。

 咲は、特にここに呼び出される回数がトップクラスである。

 誰が咲とカップルになるかなんて、学食のコロッケパンをかけたりしてるらしい。

 真由菜も告白されるが、こちらもやはり高嶺の花。

 全く他の男子生徒なぞ相手にしていない。咲の目当ての男子は分かっている。

 俺はちらりと隣のリョータを見る。

 こいつ次第なんだろう。


「あいつ、あんな優良物件をフって、誰と付き合うねん。男に興味ないんかいな」


 俺が中庭を去る咲を見ながら、呟くとリョータが「あるやろ」と言った。


「そうなんか?」


「お前、ホンキでそれ言っとんのか?」


 リョータが信じられない者を見る目で俺を見ている。一体何なんだ。

 しかし咲が興味ある男子って誰だろう。

 ふむ。謎であるが、謎は謎のままでよかろう。


「あんなところで、告白なんて素敵やねー。まさに青春って感じ」


「うんうん、分かるわー」


 見ると女子グループが騒いでいる。その中には真由菜もいた。

 こちらをチラチラと見ている。

 まさか、俺にあそこで告白して欲しかったとか?

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