第2話 幼馴染みの女の子

 次の日、失意のまま学校へ行くと真由菜が、下駄箱のところにいた。

 まさか、昨日の俺の告白を断ったけど、よくよく考えてみたら嬉しくなって気が変わったとか? などと期待したが、それは全く違う話だった。


「なぁ、片山君」


 あいさつもなしに俺に話かけてきた。


「昨日の事、リョータ知ってるん?」


「……おー、知っとるで。あの場にリョータもおったし」


 俺達は教室に向かいながら話す。


「そうなん? リョータ、何か言うてた?」


「……別に。でも、今度、他校の女子と遊び行こうかって話したわ。だから、お前も気にすんなや」


「……あ、そう」


「それで、声優のレッスンは続いてるん?」


「別に……あんたには関係ないやん」


 不機嫌にそう言って真由菜は、教室に入った。

 リョータが他校の女子と遊ぶのが気に入らないのだろう。

 俺はそれが分かっていて、その情報を伝えたのだ。そして、やはり真由菜はリョータの事が好きなんだと実感した。

 彼女はリョータの様子を聞いてきた。俺の気持ちなどお構い無しである。


 実際、クラスで彼女の様子を見ると、こちらの気も知らずに、友人とおしゃべりを楽しそうにしている。

 俺はこんなにツラいのに、何故、彼女は笑顔なのか。少しくらい俺の事を思って申し訳なく静かにしてくれてもいいのに、いつもと変わらない。

 要するに俺の告白なんて、彼女にとっては些細な出来事なのだろう。

 こちらは一世一大の大勝負だったのである。

 俺は陰鬱な気分で窓から見える真っ青な空を眺めた。


 天気まで俺の気持ちを嘲笑っている様であった。


 ◆◆◆


「あー、いい天気やなぁ。ってか」


 昼休み、屋上の床に直接腰を下ろしてボーッとする。

 とにかく教室にいたくなかった俺は屋上へ逃げ込んだわけだ。

 ここ明凰学園めいおうがくえんの校舎屋上への扉は普段カギがかかっていて、入ることは出来ない。

 でも小窓から潜り込むと、屋上に行けるので、その事を知っている学生が時折こうしてやってくる。

 とはいえ、今時の学生は頻繁にこんなとこにやって来ない。

 おあつらえ向きに誰もいないし、この真っ青な空を眺めながら、俺は無心になろうとする。

 だが、どうしたって頭の中にあるのは真由菜の可愛らしい姿。今までは友達としてそれなりに楽しく会話が出来ていたのだが、今回の俺の告白によって、今後はそれも難しくなるのだろう。


「ぐあー! やっちまったぁー!」


 俺は頭を抱えて、揉んどりうっていた。

 ──と、そこへ


「んしょ、んしょ」


 何か声が聞こえた。ドサッとした音がして、俺の横に女の子が落ちてきた。

 つまり、俺の右上にある小窓から出てきたのだろう。


「親方ぁ、空から女の子が……」


 なんつって。


「ほらぁ、ユウトぉ。こんなとこにおったやん」


「なんや。咲か」


「なんやとはナンや? んんー?」


 そう言って、小泉咲こいずみさきは腰に手を置いて仁王立ち。

 俺はボーッと咲の顔を眺める。真由菜の蠱惑的な可愛い容姿とは違い、美人系で顔がしっかり整っている。

 ツインテイルの真由菜と、黒髪ロングの咲は、ウチの高校でも名物の二大美少女だ。


 確かに、空から美少女が落ちてきたな。


 俺は手を咲にかざして「バルス!」


「何でやねん! なんで滅ぼされなあかんの?」


 咲に突っ込まれた。


 俺は整っているその顔を眺めるが、そこに恋心なんてものは湧かない。

 何故なら、咲は俺が小さい頃からずっといる空気みたいな存在。

 ──つまり、幼馴染みである。


 隣近所に住む美少女。それがこの女、小泉咲である。

 この状況を聞いた男子高校生なんて、「うらやましい!」「ラノベの王道やないか?!」「ラッキースケベとかないんか?」「パンティ貰ってきてくれ」的な意見多数──まあ、最後のはエロ高校生の友人の頼みなんだが断った──。

 だが、小さい頃から一緒にいるって何か微妙だぞ? お互いの嫌な部分や、ケンカとか自分の弱みとか色々と知られているのはむず痒い。

 お互いの両親も仲良いから、キャンプやバーベキューも散々やったりして、思春期特有の、男女が疎遠になる感じもなかったし。

 結局、俺はこいつを親戚的な目でしか見ていない。

 というか見れない!


「んで、その咲さんが、何か俺に用か?」


「用って程の事では……んんー? ほおほお」


 咲は顎に手をやり、俺の顔をまじまじと見つめる。


「ナンやねん」


「なあ、ユウト。学校抜け出そっか?」


「はあ?」


 ◆◆◆


 学校を抜け出すにしても、校門、裏門は目立ってしまう。

 校舎の窓から見える場所はダメ。

 となると、別のルートである。

 これは幾つかあるのだが、今回は自転車置き場の塀をよじ登って、高校を脱獄するルートを取った。

 別に脱走しなくても、放課後になれば出れるわけなんで、今出ていく必要はない。

 だが、こんなちょっと悪い事をするってのに高校生はワクワクするわけで。


 塀を飛び降りて、見上げると咲が降りてくるところだった。

 可愛らしいパンティがしっかり見えている。


「ほっ」


 そう言って体操選手が着地したときのポーズを取った咲である。


「水玉か……」


 俺は一言呟いて、そのまま歩き出す。


「ちょお?! み、見たん?」


「あん?」


 俺は振り向いた。咲が頬を赤くして、俺を睨んでいる。


「たまたまやで」


「エッチ!」


「ナンでやねん。今さら。子供の頃なんて一緒に風呂とか入っとったやん」


「そんなん、幼稚園の時やろ?!」


 咲は頬を膨らませてプルプルさせていた。これは怒っているのではなく、恥ずかしくなっている仕草である。幼馴染みって分かりやすい。

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