第13話 新たな仲間

 次の日の放課後のことだ。岳斗と天記はそろって下校しようと、昇降口で靴を履き替えていた。

 すると、あの日、田口をいじめていた五組の桜井たちが、三人で笑いながら目の前を横切って行く。

 桜井が、なぜかハサミを持って歩いているのを見て、岳斗も天記も嫌な予感がした。

 お互いに目を合わせる。

 桜井達は、体育館横の倉庫の方から歩いて来たのだ。二人は急いで靴を履き替え、倉庫の方向へ走った。

 倉庫の前で田口が座り込んでいる。


 「田口!」


 岳斗が声を掛けると、ハッと気付いた田口が二人を見上げた。


 「あっ!」


 天記が声をあげた。

 田口は、髪の毛のあちこちを根元から切られて、ひどい姿になっていた。切られた髪の毛が、地面にたくさん散らばっている。


 「あんのヤローッ!」


 岳斗はすっかり頭に血がのぼってしまい、桜井を追いかけようと走り出した。

 しかし、すぐに天記が岳斗の腕をつかんで止めた。


 「岳斗、ダメだ!」


 「なんで?」


 今、桜井達を追いかけてやり返したとしても、なんの解決にもならない。ましてや、このまま大事にしてしまっては、田口の心は傷ついたままだ。


 「くそっ!」


 岳斗は悔しそうに、倉庫の壁を思い切り蹴った。

 田口は下を向いたまま、泣き出してしまった。

 天記の力でも、髪の毛を伸ばすことなんてことはできない。体の傷は治せても、心の傷までは治すことはできない。

 天記は座り込む田口の背中を、優しくさすることしかできなかった。

 しばらく三人は黙っていたが、すぐに岳斗が何かを思いついたように動き出した。

 岳斗は田口の手をつかむと「田口、行くぞと」と、声をかけ引っ張った。突然のことにキョトンとしながら、岳斗の勢いに押されるように、田口は手を引かれてゆくまま歩き出した。


 「どこ行くの?」


 「天記さん、悪いけど一人で帰って。今日は稽古もないし、また明日!」


 天記が慌てて追いかけようとしたが、そう言ってさっさと行ってしまった



 次の日の朝、岳斗は天記を迎えに来なかった。

 こんなこと、めったにない。四年生の冬、岳斗がインフルエンザになったとき以来だ。念のため、岳斗の家に電話してみる。


 『岳斗ならもう出かけたわよ。なんだか寄るところがあるんだって』


 ルミが電話の向こうで不思議そうに言った。

 天記も不思議だった。仕方なく、寝ぼすけ希々を起こして二人で登校した。

 朝から天気は良く、空は青かった。冬の冷たい空気が少し気持ちよく感じる。

 クラスのドアを開けて中に入ってみたが、岳斗はまだ登校していないようだった。

天記は教室の窓枠に両肘をのせ、水色の澄んだ空を見ながら、あのあと田口はどうしただろうと、ぼんやり考えていた。

 ふと、校門を見ると、たくさんの黄色い通学帽の中に、一人だけ頭一つ大きな児童が入ってきた。

 岳斗だ。

 仲良く話しながら入ってくるとなりの児童は……、田口だ。天記は窓に身を乗り出して叫んだ。


 「岳斗!」


 岳斗はその声に気付いて、三階にある教室の窓から顔を出している天記見つけ、ニコニコと笑顔を見せた。それから、自分の被っている通学帽を脱ぎ、それと同時に田口の帽子も取って見せた。

 坊主だ!二人ともきれいに丸坊主になっていた。

 クラスの他の児童が、窓の外に気付いてのぞく。

 岳斗は人気者だ。それは女子にも人気があるということで、心ひそかに思いを寄せる女子も少なからずいる。

 次の瞬間、黄色い声が校舎中に響いた。

 その声で他のクラス、他の学年の教室の窓、職員室の窓まで一斉に開いて皆、何事かと外をのぞいた。

 ほぼ学校中が校庭に注目している。その中には、田口をいじめていた桜井達の姿もあった。

 岳斗は田口の頭を左手でグリグリと撫でながら、右手で天記に手を振った。そしてそのあと、右手の人差し指を立てて、そのままゆっくりと移動させ、六年五組のクラスの窓からのぞいている桜井を指さした。

 一瞬にらんでから、ニヤリと笑う。

 桜井は怖くなって、窓際から後ずさり教室の奥に入っていった。



 これで田口はもういじめられずに済むだろう。天記は岳斗の行動に半分呆れながら一方で、カッコ良すぎだろと、思った。

 岳斗のとなりで田口は、今まで見たこともないような晴れやかな顔で笑っていた。

 教室に入ってきた岳斗に、天記は詰め寄った。


 「なんで言ってくれなかったんだよ。そしたら俺も一緒に坊主にしたのにさ」


 「天記さん坊主になっちゃったら、イケメンが台無しでしょ」


 なんて、ふざけたことを言う岳斗。

 けれど本当は、天記が試合の時みたいにまた変身して、もしも坊主頭にツノでも生えたらそれはそれでちょっと怖い、と思っていたのだ。



 その日から、田口竜之介たぐちりゅうのすけはいつも岳斗と天記と一緒にいるようになった。

 剣道も始めて、道場へも通ってくるようになった。


 「二人みたいに俺も強くなるよ!」


 そんなことを言いながら、なぜか岳斗よりも天記と気が合うようで、よく天記の家に遊びに来るようになった。時々仲が良すぎて、岳斗がすねるくらいだった。



              つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る