ネコ見知りネコさん ~故事成語_五里霧中~

 ねこねこ王国の片隅かたすみに人見知りネコさん?いえいえ、ネコ見知りネコさん、チョウカイが住んでいました。

 チョウカイは他のネコさんと直接会って話すことがとっても苦手だったので、学校を卒業して以来、周りに誰も住んでいない場所に引っ越して暮らしていました。

 お仕事はリモートワーク、お買い物は通販サイトを利用して、他のネコさんとできるだけ会わないようにしていたのです。


 けれども、そんな生活をしていると運動不足になってしまいます。運動不足だと病気にかかりやすくなり、病院に通ったり、入院しなくてはいけなくなるかもしれません。そうなると、毎日他のネコさんと会うことになります。


 ネコ見知りチョウカイにとって、それはとっても嫌な事だったので、運動不足にならないように、毎日、ラジオ体操、ジョギング、ネコ缶投げの運動を欠かしませんでした。

 その中でもネコ缶投げは、特に上手になり、不思議なネコさんパワーで五里ごり(約20キロ)まで投げることができるようになりました。


 そんなチョウカイは、ある日通販サイトで高級ネコ缶が売られているのを発見しました。

 通販ショップでも常に売り切れという大人気商品。ネコさんの間ではあのごにょチュールと同じかそれ以上においしいといううわさのあるものです。ごにょチュールと比べるとしっかりとした食べごたえで、こちらが好きというネコさんもたくさんいます。

 そんな高級ネコ缶が売り切れになっていなかったため、チョウカイは迷わず注文しました。

 そして、数日後に届いた高級ネコ缶、そのおいしかったこと。

 チョウカイは一度食べてから、その味が忘れられず、その後、通販ショップを何度も確認しますがいつも売り切れです。

 

 そんなある日、チョウカイは通販ショップでネコ缶投げ大会の参加者を募集ぼしゅうする広告を見つけました。

 ネコ缶投げがとっても上手になっていたチョウカイ、気になって広告をクリックしてみると、そこには優勝賞品ゆうしょうしょうひんとして高級ネコ缶1年分がもらえると書いてありました。

 一度食べた高級ネコ缶のおいしさが忘れられないチョウカイはネコ見知りにも関わらず、参加することにしました。高級ネコ缶の魅力はネコを狂わせるのです。


 そして迎えた大会の日。不思議なネコさんパワーで五里まで投げることができるようになっていたチョウカイに敵はいません。当然のように優勝しました。

 チョウカイは大喜び!

 嬉しさのあまり優勝して高級ネコ缶をゲットしたことを写真付きでSNSにUPしてしまいました。

 でも、その写真にはチョウカイの家や周りの風景が映り込んでおり、高級ネコ缶を食べたくて仕方ないネコたちの注目を集めてしまい、その中にいたトクテイハンと言われる恐ろしいネコたちにあっという間に名前や住所がばれてしまいました。


 住所などがばれたその日のうちに、ねこまっしぐら、高級ネコ缶の魅力におかしくなった沢山のネコがチョウカイの家に押しかけてきました。

 家の外には、「高級ネコ缶を独り占めするなー」「高級ネコ缶はみんなのものだー」などと、大会に出てもいないのに高級ネコ缶を分けるように主張するネコさんだらけです。

 高級ネコ缶は大会にでて優勝したチョウカイの物です。本当に自分勝手なネコたちです。


 でも、チョウカイはあわてません。

「こんなこともあろうかと」と言いながら取り出したのは、ネコ缶に取り付けることができる霧発生装置きりはっせいそうち。簡単に取り付けられるうえ、霧を発生させる範囲はとても広く、直径五里の範囲はんいを霧でおおいます。五里は霧の中です。

 しかも、ネコ缶に取り付けても投げやすさは変わらないという、ものすごくお話しに都合のいい装置です。


 チョウカイは取り出した装置を高級ネコ缶に取り付けました。そして二階のベランダから姿を現すと、装置を取り付けた高級ネコ缶を外にいるネコさん達に見えるようにかかげながらこう言いました。

「今からこの高級ネコ缶を遠くまで投げるぞー」

 

 それを聞いたネコさん達の視線が高級ネコ缶に集まります。

 チョウカイは高級ネコ缶を軽く右、左と振ってみます。すると、ネコさん達は缶の動きに合わせて顔と体を右に左に揺らしました。見事にシンクロしています。

 ネコさん達、缶から目が離せません。


 ネコさん達が目を離せずにいることを確認したチョウカイは、缶を遠くに投げました。すると、ネコさん達は一匹残らず一斉に缶を追いかけていきました。

 それをベランダから見送ったチョウカイは、部屋に戻ると、カメラ付きドローンを起動して、ネコさん達の後を追わせ、様子をうかがいました。

 そして、ネコさん達が高級ネコ缶に近づいたところで「ポチッ」と霧発生装置のスイッチを押しました。たちまち缶の周辺に霧が立ち込めます。


 さあ大変。缶を追いかけていたネコさん達は霧のせいで回りが見えなくなりました。追いかけていた高級ネコ缶も、どこにあるのかわかりません。

 ネコさん達は方角も分からず迷ってしまって、どうすればいいのかわからなくなってしまいました。

 霧の中から抜け出したくても、簡単には抜け出せません。何しろ直径五里の範囲が霧の中ですから。

 そして、やっと霧の中から抜け出せたネコさん達はすごく反省してそれぞれの家に帰っていきました。


 こうしてチョウカイは静かな日常を取り戻したのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いろんなネコさん大活躍! ネコさん故事成語 南川みなよし @kitayoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ