かつおぶしは多すぎても少なくても駄目なのです! ~故事成語_過ぎたるは、なお及ばざるが如し~

 ネコさんみんなが大好きなネコ缶。

 でも、いくら大好きでも、ネコ缶ばかり食べていては飽きてしまいます。


 シーコウもそんなグルメネコさんでした。

 たまには別のものを食べたいな、でもネコ缶よりもおいしいものなんてあるのかな?とシーコウは考えます。


 このままネコ缶を食べ続けるのか、それともカリカリと言われる食べ物にチャレンジしてみようか、あるいは高級マグロ缶やサバの味噌みそかんもおいしいかもしれません。

 近頃ちかごろはオイルシャアディンじゃなくって、オイル13でもなくって……、えっと……、そうそう!オイルサーディンというのも流行はやっているという話です。


 ほかには、グルメネコ仲間の内で話題になっている、禁断きんだんの、一度食べたら他の食べ物が食べられなくなるとも言われている、なんとかチュールという食べ物も、ちょっと怖くはありますが、とってもとっても気になります。


 そんな風にいろんな食べ物のことを考えていたシーコウに、ある日運命の出会いが訪れました。


 出会いの相手はかつおぶし!薄く削られた、いい香りのするかつおぶし!いろんな食べ物の味を引き立ててくれる、そんなすてきな食べ物にシーコウは出会ってしまったのです。


 出会いのきっかけはコンビニに買い物に行ったときに見つけた雑誌ざっしでした。

 そこにはこんなキャッチコピーが書いてありました。

 そのままでもおいしいかつおぶし。でも他の食べ物と一緒に食べると、もっともっと、どっちもおいしくなるにゃ!


 そう、『にゃ』です。そのキャッチコピーの言葉の最後に、なんと『にゃ』がついていたのです。

 ネコさんたち、実は言葉の最後に『にゃ』なんてめったにつけません。

 漫画まんがやお話にでてくるネコさんは言葉の最後に『にゃ』をつけていることが多いので、そんな話し方をすると誤解ごかいされていますが、感動したときやおどろいた時に思わずでてしまう言葉なのです。


 グルメネコのシーコウは、その雑誌を見たことで、かつおぶしをのせたネコ缶、名付けてかつおぶしネコ缶!を作ってみることにしました。

 はじめにシーコウは、ネコ缶をいくつもいくつも用意しました。

 そして次に、かつおぶしを山のように用意しました。


 あまりにもたくさん用意したため、お部屋がネコ缶とかつおぶしだらけになってしまいましたが、シーコウは気にしません。

 今のシーコウが気になるのは、かつおぶしをのせたネコ缶の味のことだけです。

 どんなおいしいかつおぶしネコ缶になるのか、期待に胸がおどります。

 シーコウのしっぽもおどっています。


 はじめて作るかつおぶしネコ缶、こわごわとほんのちょっとだけ、ひとつまみ、かつおぶしをネコ缶にのせました。

 そして出来上がったかつおぶしネコ缶試作しさく1号。

 シーコウはおもむろにスプーンですくい食べてみました。

 だけど普段食べているネコ缶とほとんど味が変わりませんでした。

 かつおぶしがあまりにも少なかったのです。


 シーコウは少しだけがっかりしました。

 シーコウのしっぽもすこし元気がなくなったようです。


 かつおぶしネコ缶試作1号が失敗したので、今度はたっぷりとかつおぶしをネコ缶にのせてみることにしました。

 名付けてかつおぶしネコ缶試作2号です。

 ネコ缶が隠れて見えなくなるほどたっぷりと、かつおぶしをネコ缶にのせました。

 ネコ缶を具にしたかつおぶしのおにぎりが作れそうです。かつおにぎりです。


 シーコウはおそるおそるスプーンですくいお口に運びました。

 シーコウのおひげも期待と不安でぷるぷるふるえています。


 お口の中に入れた途端とたんかつおぶしの香りがお口いっぱい広がります。そして、さっきとは違い、しっかりとかつおぶしの味がします。

 でも、ネコ缶の味がしません。かつおぶしの味だけでした。

 これはもう、かつおぶしネコ缶じゃなくてかつおぶしです。お口の中がかつおぶしだらけの宝石箱です。

 シーコウが期待していた味とはまったく違います。

 シーコウのおひげもだらんとたれています。


 その一部始終を隣に住んでいる白ひげネコさんが玄関から見ていました。

 いくつものネコ缶と山のようなかつおぶしが運び込まれたのです。

 気にならないはずはありません。

 そしてその白ひげネコさんがボソッとつぶやきました。

「過ぎたるはなお及ばざるが如し」


 そのつぶやきが落ち込んでいたシーコウの耳に届きました。

 なんとも難しそうな言葉です。でも、なんだか期待ができそうな言葉でした。

 かつおぶしネコ缶をおいしくするヒントが隠されていそうだと、シーコウのおひげがピン!と立ちます。


 そこで、シーコウは思い切って白ひげネコさんにたずねました。

「いまつぶやいた言葉の意味はなんですか?」

 明らかに不審ふしんネコなのに勇気があります。


 それに対し、白ひげネコさんはこう言いました。

「少なすぎるのも駄目だけど、多すぎるのも少ない時と同じように駄目だって意味だよ。かつおぶしをネコ缶の半分ぐらいの量にして食べてごらん。」


 実はこの白ひげネコさん、シーコウよりも先にかつおぶしネコ缶のおいしさに気づき、おいしい量の組み合わせをたくさん研究していた、かつおぶしネコ缶研究ネコだったのです。


 それを聞いたシーコウはアドバイスにしたがって、かつおぶしネコ缶を作り、食べてみました。

 一口食べたシーコウ。

「マリアーーージュにゃ!」

 思わず大きな声で叫んでしまいました。叫んでしまうほどのおいしさだったのです。

 言葉の最後にもしっかり『にゃ』がついています。


 このときからシーコウは、毎日おいしいかつおぶしネコ缶を食べれるようになったのでした。

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