第9話悟空に「ザラキ」って効くの?それならドラクエのラスボスに「アックマン」は?

―アムロ行きますターン


「これ今月分な」

 僕は喫茶店でいつものように信用の置ける人から封筒を受け取る。この封筒の中に三百万円の五%の十五万円が入っている。

「いつもすいません。ありがたく頂きます」

 そう言って僕は封筒をそのまま中身を確認せず、ポケットの中に半分に折って突っ込む。何故、ちゃんと中身を確認しないのか?そういうことは信用の置ける人相手にはしてはいけない、失礼なことであるとこの人から学んだ。

「どう?お前、もっと持ってるんじゃない?あと一本追加してみるか?それだと月二十万になるぞ」

「いや、そうしたいんですが。最近、無駄遣いが多くて手元はほとんどないんですよ、そうめんさん」

 僕はこの人を「そうめん」さんと読んでいる。この人と出会ったのはツイッター。面白そうな人だな、信用出来そうだなと最初に感じ、何度かツイートで絡んで、その後はDMでやりとりし、リアルで会った。ツイッターでリアルに誰かと会ったのはそうめんさんしかいない。最初にそうめんさんの悩み事を僕が解決した。と言ってもお金とかではなく、専門知識を持つものなら比較的簡単に解決出来ることだった。そうめんさんはそういうものをこういう別の形で僕に返して(僕は気の置ける相手だと損得勘定でものを考えないけれど)くれた。ブラックコーヒーを飲むそうめんさんはタバコを吸わない。止めたらしい。僕はそうめんさんに気を遣って確認してからタバコを咥えて火を点ける。

「タバコ代で月に何十万も使ってんのか?」

「まさか。それはありませんよ。最近は原付ですね。あれはいいですね。僕は頭の中で常に考え続ける自分でも嫌なところがあるんですが、あれに乗っていると運転に集中しちゃうんです。余計なことを考えなくなるのでそこが気に入ってます」

「フ、十八?十七で三百万を超える金を持ち、毎月その利子で十五万稼いで、親に家賃だっけか?お前なら外車でも乗れるんじゃないのか?」

「無理ですよ。原付で駐車場代としてさらに毎月五千円払う羽目になったんです。車だといくら取られるか」

「面白いな、お前の親御さんは」

 そうめんさんは声を出して笑いながらそう言った。

「明日からもっと面白いことが始まるんですよ」

 僕のその言葉にそうめんさんが身を乗り出してきた。

「お前が面白いって言うなら相当なんだろう?金か?起業でもするのか?」

「まさか。僕の手持ちは素寒貧ですよ。そうめんさんに一つ聞いてもいいですか?」

「お、いいぞ。なんだ?」

「この世で一番強いのは何だと思います?」

 僕の質問に一瞬あっけにとられたそうめんさんが少し考えこむ。

「この世で一番強い?強さにもいろいろと種類があるからなあ。やっぱり…『金』かなあ?」

「そうなりますよね。そうめんさんも一度は考えたことがあると思うんですが…、変なこと言いますが『ドラえもんのポケットがあればなあ』と考えたことはありませんか?」

「そんなの誰だって考えるだろう。何度も考えたことはあるよ」

「そういう意味での一番強いのは何かを明日から決めるんです」

「ん?どういうことだ」

 僕はそうめんさんに『ドラフト』の話をした。僕の説明を聞いたそうめんさんが爆笑しながら言った。

「それはめちゃくちゃ面白そうだな!なるほど!確かに『ドラえもん』の弱点は時間だ。そんな発想はなかったわ。お前はやっぱり面白いわ!」

「いや、僕一人では何も出来ませんよ。僕の特別な友達二人がいたからです」

「俺は今のアニメとかそういうのは全然疎いけどそれでも『ドラゴンボール』や『キン肉マン』とかその辺なら知ってるぞ。あれ、何だったっけ?名前は思い出せないけど、王位争奪編で昔のテレビカメラみたいな超人いただろ?」

「ミスターVTRですか?」

「そうそう!あいつって結果を編集して自分の都合のいいように編集出来ただろ?あいつに勝てる奴ってそうそういないんじゃないの?」

「でも原作では負けてるんですよね」

「そう言われればそうだよな。最後はキン肉マンのチームが勝ったんだよな。その辺の記憶は曖昧だから覚えてないけど、ミスターVTRってどうやって負けたの?」

「ネットを探せば出てくると思いますがキン肉マンに負けましたね。編集する能力は自分の試合中には使ってないです」

「へえ、そうなんだ。まあ、俺もほとんど記憶にないけどあの当時は発想にびっくりしたなあ。子供だったのを差し引いても矛盾とかも感じなかったし、強すぎてこんな相手をどうやったら倒せるんだ?って漫画がやたらあったし、どれも主人公が最後には倒しちゃうんだけど、よくこんなこと考えつくなあ、めちゃくちゃ面白いって記憶は多いな」

「今もそういう作品は多いですね。まあでもご都合主義なのも増えましたし、過去の名作の焼き増しっぽいのも多いですかね」

「で、お前は候補に何を選ぶの?って聞いても俺の分からない作品ばかりなんだろうなあ」

「いえ、僕はゲーム系を選ぼうと思ってます。『ドラクエ』とか『ファイナルファンタジー』とかそうめんさんもやりましたよね?」

「何?ゲーム系?ははーん、なるほどな。『ドラクエ』も『ファイファン』もやりつくしたよ。あれは国民的ゲームだろ?でも…、スーパーサイヤ人と勇者って戦ったらどうなるかあんまりピンとこないな」

「そうですか?似てるところも多いし、やり方次第ではいい勝負すると思うんですが。例えば『ベホマ』は『仙豆』じゃないですか。『ルーラ』は『瞬間移動』、『ザオリク』は『神龍』。わざわざドラゴンボールを集めなくても一年待たなくても何度もすぐに生き返らせる『ザオリク』は使い勝手がいいと思いませんか?それにラスボスなんかは理不尽なほどすごい能力を持ってませんでした?」

「そうそう!何とかギリギリで倒したと思ったらラスボスは変身するんだよな。特に『ドラクエⅡ』かな?ボスに辿り着くまでが鬼だったような」

「ロンダルギアの洞窟ですよね」

「そう!確かレベルをマックスまで上げてもボスに辿り着く頃にはマジックポイントが残ってないとかあったような」

「『ファイナル・ファンタジーⅢ』のラスボスの『暗闇の雲』は普通に戦ってもダメージ与えられませんし、攻撃されたら9999ダメージで即死ですからね。ラスボス以外にもえぐい敵キャラも多かったですし。それらを倒す勇者たちは強いんじゃないでしょうか?」

「確かに…」

「悟空に『ザラキ』を唱えるとどうなるんでしょうかね?」

「避ける…、うーん?前以て分かっていれば対応出来るかも…」

「じゃあ逆でいきましょう。『ドラゴンボール』初期に占いババっていたじゃないですか」

「あー、いたなあ」

「アックマンって覚えてます?」

「いたいた!ビームを出して悪の心を少しでも持っていると破裂して死んじゃうんだよな!」

「『パフパフ』とか子作りの概念があるゲームの世界では、勇者たちはどうなんでしょう?少なくともラスボスは悪の設定ですからアックマンには手こずると思いますし。悟空も子作りした後に筋斗雲に乗った描写ってありましたっけ?あれはエッチな心も乗れない条件でしたっけ?」

「どうだろう?覚えてないわ。でも、性欲は人間の本能だし、子孫繁栄のために生物なら絶対必要なものだし、それを邪な考えと言うのはこうやって話してみると考えさせられるなあ。まあ、悟空は『本当にいい奴』だとは思うよ。そう言えば最後の方はブルマのおっぱいを触らせるとかでベジータに怒られてたよな。『チチの乳』って。あれは笑ったなあ」

「こうやってそうめんさんと話しているだけでもキリがないじゃないですか?それだけ面白いことを明日から僕らはやるってことですよ」

「でも、お前は俺から見ても普通の高校生とは違って、頭の中身が違うからすぐに勝っちゃうんじゃないの?」

「普通ならそうなんでしょうけど、二人とも一筋縄ではいかない連中なんですよ」

「お前がそういうならそうなんだろうな」

「前に固定電話の番号やフリーダイヤルの番号をスマホで使う方法を教えたじゃないですか?」

「ああ、あれなあ。あれはすげえ使えるよ。通話の録音も出来るしな。今のアプリでも通話を録音できるものは存在しないんだろ?」

「それっぽいものはありますが実際には機能しないですからね。でも、それ以上の発想をあの二人は持ってるんです。あの方法をそうめんさんに教える前に、つまり僕がそれを知る前にすでに彼らは…」

「え?その子達から聞いたの?」

「いえ、最初にあの二人が組みまして。僕の前で一人がもう一人のスマホに電話を掛けたら固定電話の番号が表示されまして。種明かしを聞いたら、そいつの携帯番号の登録名を固定電話の番号にその時だけ変更してたんです。本来なら名前が表示される画面に固定電話の番号ですよ。種明かしを聞けばすごく簡単なことですが。頭の中で…、四次元を作れる。そんな二人です」

「そいつはすげえなあ!まあ、次に会う時には決着ついてるだろ?その時に結果教えてくれよ」

 そう言ってそうめんさんが席を立つのに合わせて僕もグラスに残ったアイスミルクを一気飲みしてから席を立つ。

「あ、前回は奢ってもらったので今日は僕が払います」

「そうだっけ。じゃあご馳走になるわ」

 僕はお会計を済ませる。ブラックコーヒーとアイスミルクで二千円近い支払い。そうめんさんと別れた後、原付に跨り、エンジンをかける前に僕はふと夜空を見上げた。


 あいつとあいつとあと…。何個か選ばれると厄介なんだよなあ…。ま、いっか。

 僕は頭の中身を空っぽにして夜の街を原付で走った。

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