15 ナンパ男VS弱虫君



「え!シンタ!?」



 リリィは男の肩を掴む俺を見て驚いた。


 俺は情けないことに、男の肩を掴んで睨んだまま硬直している。足がガクガクして、小鹿のような足になっている。


 そんな俺の姿を睨んでいた男は、思い出したかのように、突然口を開いた。


「あ!もしかして昨日魔導師館で会った奴か。いや~あん時は俺の機嫌悪かったからな~悪かった悪かった~!」


 男はそう言って、笑いながら俺の背中をバンバンと叩き始めた。いってぇな。と思いながらも、実際そんな事は口にできない。言い返せる訳がない。なぜなら、俺がビビリの陰キャだから。それにこの男、口は笑ってるけど目が笑っていない。余計に怖えよ。


 俺が男の肩を掴んだまま、背中から感じる痛みを我慢していると、男は俺の小鹿みたいになってる足にちらっと視線を移した。そして、そのまま自分の体を引き寄せ、俺の耳元で囁いてきた。


「……で?今もあん時もヒビってる弱虫君が、何の用だ?邪魔すんじゃねーよ、弱虫君」


「……っおまえ!!」


 男の言葉に思わずカッとなった瞬間、後ろから追いかけてきていた2人が、俺たちの所まで走ってきた。


「……シンタ~!っなんだよもう……あれ、リリィじゃんか」


「あれ、ハリー?どうしたの、こんな所で。今日は魔道師館に籠ってるって聞いてたけど」


 俺の元へたどり着いた2人は、リリィと男にそう問いかけた。どうやら男は「ハリー」というようだ。


「あ、ライアンもいたんだ」


「あん?おーなんだ、ソルも一緒だったのか。っ!じゃあ、もしかしてルナも一緒か!?」


 ハリーは俺の手を払いのけ、慌てた表情で、キョロキョロと辺りを見渡した。


「いや?一緒じゃないよ。ルナは今、依頼で3、4日は不在だよ」


「な、なんだ……そうだったっけか」


「……なーに?もしかして、残念だった~?」


 ソルはハリーに近づきながら、ニヤリと笑った。


「ばっ……!……ばか言うな。俺はあいつが嫌いなんだよ」


 ハリーは慌てた様子でそう答えた。すると、ソルは「ふーん?」と言いながら、更にニヤニヤとした表情を浮かべている。そんなソルに対して、ハリーはバツが悪そうな表情を浮かべながら、視線を逸らした。


「ふふっま、いいや。それで、一体なにしてたの?」


「あ?いや、俺はただ研究に使う薬草を買いにきたんだよ。そしたら偶然リリィを見かけたから、ナンパしてたとこだったんだよ。そしたら、この地味男が邪魔してきやがってよ」


「ちょっと、ハリー!」


 ハリーの言葉に、リリィはすかさず口を挟んだ。リリィ、この男のこと呼び捨てで呼んでた、よな?知らない男から言い寄られて困っていたのかと勝手に思ってたけど……もしかして、知り合いなのか?


「いや、だってよ」


「だってじゃないわよ!失礼なこと言わないで!」


「失礼って、俺は見たまんま口にしただけだぜ?どう見たって、地味じゃねぇか。こいつ」


「っ~~!人は中身の方が大事なの!!!」


 ん?……あ、地味なことについての反論はしないのね。うん、地味だよね。ぱっとしない日本顔に身長も普通、筋肉も普通だもんね。うん、分かってたよ?俺。


 俺が心の中で静かに泣いていると、ハリーは突然リリィに顔を近づけた。


「はーん?どうりでなんか最近、ツれねえなって思ってたら、こんな地味男にお熱だったんか~?」


 ハリーがそう言うと、リリィの頬が少し紅らんだ。


 え、マ?


 俺、実は脈ありだったの?え、ちょ、リアルな恋愛なんて、最近したこと無さすぎて分かんなかったよ?あ、最近ちゃうわ。俺、彼女いない歴=年齢だったわ。


「別にそんな……それに、最近ツれねえなって元々ツれないわよ。ほんと、毎度毎度飽きないのね」


「ま!男は強引なくらいがちょうどいいからな?」


 いや、それはイケメンの2.5次元か、2次元に限るって姉貴が言ってぞ?あ、でもこいつイケメンだったわ。ちくしょう。


「もう、しつこいって言ってるの!」


 リリィがそう言うと、ソルが突然「ふっ」と鼻で笑った。


「……その強引さを本命にこそ、使えばいいのに…性格が曲がっちゃって、ま~……笑」


 ソルはそう言いながら、やれやれと両肩を上げてみせた。


「おい!ソル!うるせーぞ、コラ!!」


 そんなソルの様子を見て、ハリーは怒鳴った。そして、大きくため息を漏らしてから、リリィの肩を抱いて掴んだ。


「んじゃ、ま、とりあえずリリィとデートしてくるから、またな」


「ちょ、ちょっと、だから、しないってば!友達も置いて行けないし」


 リリィはそう言って、友達の方に視線を移す。褐色の肌の色にロングの黒髪を後ろに束ねて、青い瞳をした背の高い女性だ。あと、なんていうか、胸がでk……セクシーな人だ。


「ん?あぁ。勿論、君も一緒に行こうよ。俺は可愛い女の子なら大歓迎だからさ」


 ハリーはそう言って、その女性の手をとり、手の甲に軽いキスを落とした。


 おいおい、どこぞのイタリア人か!?


 キスをされた子はと言うと、顔をしかめっ面にしてハリーを見下ろしている。そして、捕まれた手をバシッと払いのけ口を開いた。


「悪いけど、私、新婚の既婚者なんで、こういうの辞めて貰えます?」


 ハリーは一瞬驚いていたが、すぐに笑顔になり「それは残念だ」と言って少し肩をすくませてみせた。そして、リリィの方を向いてから「今日はしょうがないから、また誘うよ」と告げた。


「いや、もう、金輪際誘ってこないで」


「ほんとツれねえ奴だな~。まあ、でもそれは無理。デートに誘うなんて、俺にとっては挨拶みたいなもんだし」


 ハリーはそう言うと、今度は俺の方に視線を向けた。すると突然、何か閃めいた顔をしてニヤりと笑った。


「まあ、でもそんなに誘って来ないでって言うなら……そうだな。ちょっとお前……俺と勝負してみないか?」


「………は?しょ、勝負?」


 俺は突然の申込みに思わず聞き返した。




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ゲーム徹夜して風呂場で爆睡してたと思ったらダンジョンの森ん中で目が覚めました 杏音-an- @aaaaa_

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