第23話 健太郎

 妹から友人のストーカー男を脅すため、監視役を担っていたにもかかわらず、まさか自分がトイレに行っている間に犯行が行われていたことにショックを受けた。


 部屋へ戻ってカメラの録画の映像をパソコンで再生してみると、全身黒尽くめの何者かがまりこの家の扉に袋をかけていた。そこへ帰宅したまりこがそれに気付き、動揺したかと思って袋を持ち去ったあと、犯人がまた現れて置き手紙を玄関ドアに差し込んでいたのだ。


 牽制するには絶好のチャンスだったのに、妹やまりこになんと言い訳して詫びれかいいのか考えあぐねて頭を掻いた。

 早送りして他に変わった点がない

か見て確かめる。すると、黒いセダンがまりこのアパートの前に止まった。録画はここまでだ。


 僕は慌てて肉眼で確かめるべく、窓の外の様子を伺った。


 そこでまりこの部屋の扉が開いた。そして鍵を閉めて、今来た車に乗り込んでしまった。


 ──まりこは車でどこかへ行くつもりだ。

 誰だろう?


 肉眼では車内の様子までは分からなかったけど、まりこは何故だか慌てているようにも見えた。


 日中監視しているのも気がひけていたものだから、もしまりこに何か異変があったのだとしたら僕の責任だ。一旦外へ出てあたりを探ってみるのも良いかもしれない。


 しばらくして、窓の外の遠くから、聞きなれた車のエンジン音が聞こえた。


 父さんのものだと思ってアパート側の道を見たが、自宅へ向かってくる車はいない。どうやらまりこの自宅前に止まった車が父さんと同じ車種だったようだ。


 それに父さんの帰宅はいつも遅い。まだ会社にいてもおかしくない時間で、父さんが帰ってくるはずもなかった。


 そんなことよりも、まりこのアパートを撮っていたカメラの録画をもう一度よく確認した方が良いかもしれない。拡大すれば、はっきりと犯人の顔が写っているだろう。だが困ったことに、撮りためた分を見ている間は録画を続けていることができない。


 ──ならばどうする?


 このまま録画を続けて、外へ出てみようか。


 そうして行動に移せば、犯人をみすみす逃した僕の詫びも、受け入れてもらえるかもしれないと思った。


 どうせ録画したものは、妹達が揃った時に一緒に見ることになっている。だとしたら、行動するのも今しかない。


 幸いまりこは誰かと外出中で、今すぐ危険な目にあうこともないだろうから。


 そうだ、それが良い。それまでは、僕も誠心誠意を尽くして、まりこの見張り役として、防犯役に徹していれば良いのだから……。

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