第24話 まりこ
高校生だけではきっと泊まれないような、高層高級シティホテルの一室。
エントランスは煌びやかで、制服姿が妙に浮いて見えたことだろう。
スーツ姿の拓海さんは受付もスマートにこなすと、私をエスコートするようにホテルの部屋まで連れて行ってくれた。
エレベーターと部屋と部屋をつなぐ廊下もモダンな絨毯で、そこかしこのフレグランスはバーベナの香りが漂う、まるで別世界の大人の空間だった。
カードキーをタッチした拓海さんの後に連れ立って、私も部屋へと入った。
タイミング悪く、スマホから着信音が流れる。現実へ急に引き戻されてしまったかのようだ。それも、私のスマホからだ。
画面を除くと、発信者は椎名からのものだった。……今。一番話したくない相手だとつい、眉をしかめる。
「出ないの? 」
挙動不審だった私を見て拓海さんが言う。
「え、あ……うん」
すぐに着信が切れると、今度は椎名からのlineだった。
『うち、今日お父さん帰ってこないんだって! お母さんもずっと部屋に引きこもってるし、そっちへ行っていい? 』
返信内容を考える。どこに身を置けば良いか分からずに、キングベットにさっと腰掛ける。私の横に座るタクミさんの重みが、私の心を傾けさせる。
「友達かな? 」
「あっ、えっと──」
「──さとみか」
そして、沈黙。
「まさか図星? 」
「もお〜、違いますよ! そんなタイミングよく──」
拓海さんの唇で私の唇が塞がれた。メールのタイミングといい、咄嗟のことに私の心臓が制服のリボンを弾ませるほど鳴っている。
「ま、まって! 」
「どうして? 覚悟して一緒にここまで来てくれたんだろう? 」
「違うんです、あの、せめてシャワーだけでも……」
「大丈夫、気にしないで。君は寝ているだけで良いよ。僕の体が不潔そうで嫌だと言うなら、心配いらない。僕はEDなんだ」
「え?! だったら何故こんなことまでして……」
鳩が豆鉄砲を食ったとはまさにこのこと。
「だから、そういうこと。君はそのままでいて、その肌の味も、髪の香りも、とても素敵だ。綺麗だよ……まりこ」
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