第8話 外の空気は美味いわけじゃないのかな

「ワタシは、ワタシとして生きていきたいだけなの‼」

 JCがオニィの腹部にゴルフクラブのヘッドをめり込ませた。

「グッ…」

 オニィの動きが止まりガクッと膝から前のめりに崩れ落ちた。

「今だ‼」

 レーダーの声にドライブが弾かれるようにアクセルを踏み込む。

 JCとオニィの間にタイプ2を滑り込ませ、ブッシがドアをガラッと開ける。

「乗れJC‼」

 ブッシの声に肩で息するJCが倒れるように車内に入った。

「出せ‼」

 ブッシがJCを奥へ引っ張り込んでドアを乱暴に閉める。

 バンッとアクセルを踏み込むドライブ。

 土砂を巻き上げて灯台から遠ざかるタイプ2。

 フーッ…フーッ…

 興奮気味に呼吸が乱れるJC。

 ゴルフクラブを握ったまま、シートに横たわる。

 そして、小刻みに震えた身体の震えが止まると同時にそのまま意識を失ってしまった。

「とんでもねぇというか…さすがというか…」

 レーダーが意味深な視線をJCに投げかけ呟く。

「で?」

 ハンドルを握るドライブの問いかけ、その意味を理解しているように、気乗りしない口調でレーダーは答える。

「美術館…」


 深夜のドライブは無言のまま…フォルクスワーゲン・タイプ2、子気味いいアクセルワーク、後部シートではブッシがコクリコクリとメトロノームのようにリズムよく揺れる。

(与えられた本能…管理を解かれた個体)

「イレギュラーか…」

 助手席の窓を少し開けて外の空気を深く吸い込む。

「エアコンの空気って制御されてるんだろうか?」

 レーダーのつぶやきにドライブが答える。

「外の空気が美味いとは限らない…と思うがね」


 美術館に着くころには空が白んでいた。


「何時から開くんだ?」

 ドライブがレーダーに尋ねる。

「ん? 24時間…開いてるよ、この街に時刻なんて意味が無い」

 後部シートで、眠っているブッシを輪ゴムでパチンと弾いて起こすドライブ。

「ん…ん~」

 不機嫌そうに目を開けるブッシ。

「なんだよ…どこだよ…」

「美術館だ」

 ガチャッ…と助手席のドアを開けレーダーが安いライターで煙草に火を点ける。

 深呼吸の代わりに煙を深々と吸い込む。


「JCの目が覚めたら中へ入るぞ」

 レーダーがフッと煙草を吐き捨て足で火をもみ消した。

「起きてるわ…」

 JCが横になったまま瞼を開く。


「大丈夫か?」

 ドライブが振り返りJCに尋ねる。

「平気よ…ちょっと筋肉痛…」

 細い二の腕を摩るJC


 それを不思議そうな顔で見るレーダー。

(外の空気は美味いわけじゃないのかな)

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