episode 11 自転車に乗りた~い 其の参

 特訓最終日とっくんさいしゅうびー。

 連日れんじつの“特訓とっくん”で、ボクはバランスがれずに何回なんかいころびました。なので、ひざすねきずがいっぱいです。ひじうでにはかさぶたが出来できていて、すこかゆいです。下手へただから仕方しかたないけど、ころぶのはちょっとずかしいな。

きょうの練習れんしゅうは、近所きんじょにある工場こうば駐車場ちゅうしゃじょう日曜日にちようびなので、ガランとしています。パパも会社かいしゃがおやすみなので、あさからやる満々まんまん

一歩いっぷきずのひとつやふたつは“おとこ勲章くんしょうだ”。心配しんぱいするなよ」

心配しんぱいはしてないけどさ。パパ、せっかくささえてくれてるんなら、ボクがころまえたすけてよ。はなさないでさぁ。ボク、勲章くんしょうなんかいらないんだけど…」

「いいか、一歩いっぷなかには、つまずいておぼえることがいっぱいあるんだ。いまのうちに、ころんでおくと将来しょうらいころばなくてむ。大事だいじなのは経験けいけんだな。すこしづつ上手じょうずになってるのが、その証拠しょうこなんだから」

「ホントかな?」

 でも、フラついてはいるものの、ちょっとずつれている感覚かんかくはある。3メートル、5メートル、7メートル…。ころびそうになっても、両足りょうあし使つかってちこたえることもおぼえたし。パパのとおりなんだろうか。

一歩いっぷ、ちょっと休憩きゅうけい

 パパは一旦いったんいえかえると、ママをれてもどってきました。

<『わが姿すがたられるぞ』って、パパの根拠こんきょのない自信じしんなんなのよねぇ。本当ほんとうに、きょうれるようになるのかしら、一歩いっぷ

それでもママは、スリム・ジーンズのうしろポケットにちいさなカメラをしのばせていました。

 「いいぞ、一歩いっぷ。そう、うでちからいて。手元てもとじゃなくて、なるべくとおくをるんだぞ」

ボクは少しだけ、コツがかってきたのかもしれません。パパのアドバイスにも無言むごん集中しゅうちゅうしていました。

パパが荷台にだいからはなして自転車じてんしゃのボクをいかける時間じかんが、ちょっとずつだけどながくなっています。そして、ママがているせいか、ボクがころ直前ちょくぜん何度なんど何度なんど両手りょうてささえてくれました。

「ママ~ッ」

さけんだのはボクじゃなくて、パパ。

 パパは《かえ》り返ると、ニコッと写真しゃしんるポーズ。ママは半信半疑はんしんはんぎでフィルムをげてカメラをかまえました。


 「いいか、一歩いっぷ目線めせんは30メートルくらいまえだぞ。フラフラしてもこわがるなよ。ペダルをいでスピードがているほうがバランスがとれるから、自信じしんってな」

パパはそううと、サドルにまたがったボクの背中せなかをパンパンとたたきました。

おおきくいきって、ペダルにせた右足みぎあしちかられてむ。視線しせん駐車場ちゅうしゃじょうこうがわのフェンス。ハンドルをみぎひだりへー。ボクの自転車じてんしゃあぶなっかしく蛇行だこうしながら前進ぜんしん。いつのにか、パパは荷台にだいからはなして小走こばしりで自転車じてんしゃいかけていました。

一歩いっぷ、ブレーキ。ブレーキ!」

ボクは、フェンスのまえまりました。

「ボクれたの? ねぇ、れた?」

「ああ、れた。ほら」

パパがゆびさすこうには、“小さくなった”ママがカメラ片手かたて拍手はくしゅしていました。

「いいか、一歩いっぷ。おひるべたら、おさらいだ。一回いっかいれたらもう大丈夫大丈夫。“雀百すずめまでおどわすれず”だ」

雀百すずめひゃくまで…? でもボク、すずめじゃないよ」

一歩いっぷ。ことわざだよ、ことわざ」

そううとパパは、ボクのあたまをクシャクシャとでてくれました。

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