episode 8 パパ、真っすぐ登ってよ!

 ボクは、パパのくるまってドライブにくのが大好だいすき。

もみじのっぱがいろづく季節きせつになると、毎年まいとしかける場所ばしょがあります。

ボクんから1時間半じかんはんくらいだったかな。おおきなやまにある神社じんじゃです。ボクは頂上ちょうじょうからながめるでっかいうみ。パパはきくまつり。そしてママはなもみじと、みんなたのししみがちがいました。

神社じんじゃのおにわには、オトナのひらもありそうなおおきなきくはながいっぱいならんでいました。鉢植はちうえっていうんだそうです。パパもそだてていますが、こんなにおおきくありません。

「まあ、立派りっぱきくばっかり」

「さすがにレベルがたかいな」

「ダメよ、一歩いっぷさわっちゃダメ。みんなが大切たいせつそだてたおはななんだからね」

「パパのもあるの?」

「パパは、まだどもみたいなもんだから、こんな素晴すばらしい作品さくひん無理むりだよ」

「サクヒン?」

「そう。上手じょうずひときくはなをそううんだ。パパのパパも上手じょうずだよ。ばあちゃんならんでるのをたことあるだろ、一歩いっぷも」

「あるある。たことあるよ」

パパは、いつもはボクをっているカメラでしろ黄色きいろ、ピンクや黄色きいろとオレンジいろざったきく花火はなびのようなたことのないの花々はなばな写真しゃしんおさめています。すこし、退屈たいくつしたボクに、

一歩いっぷ、これ全部ぜんぶきくはなだぞ」

そうって、一本いっぽんくきからたくさんのはなをつけたたこともないきくはなゆびしました。

「へー、“千輪せんりんき”ってうんだって、一歩いっぷすごいね~」

「えーっ、せんって、おはな千個せんこもあるの?」

千個せんこはないわよ。それだけおおいってこと。でも、百個ひゃっこぐらいはありそうね。一歩いっぷかぞえてみたら?」

 ボクはゆびってかぞえてみたけど、何度なんどかぞ間違まちがえて4かいぐらいであきらめました。

「まだ、むずかしいわよね、一歩いっぷ。ほら、こっちはおはなかぞえなくてもいいわよ、菊人形きくにんぎょう

「これ、全部ぜんぶきくのおはな? すっごいねぇ」

「ホント、すごいわね。そうえば一歩いっぷ来年らいねん七五三しちごさんだから一歩いっぷもお着物きものなきゃダメね」

なきゃ、だね」


 神社じんじゃでおまいりをしたあと山頂さんちょうつづ専用せんよう道路どうろくるまのぼったんだけど…。

おもちゃであそんでいたボクは、パパのくるまはじめて気持きもちがわるくなっちゃった。

「ねぇ、パパ。クネクネがらないで、っすぐのぼってよ」

くるまいのピンチです。どもに社会しゃかい常識じょうしきなんてかるわけがありません。

一歩いっぷつらいよなぁ。でも山頂さんちょうまでっすぐのぼみちはないんだよ。もうすこしだからね。ちょっとよこになりなさい」

一歩いっぷ神社じんじゃから登山道とざんどうあるいてものぼれるんだけど、どうする?」

意地悪いじわるわないでよ、ママ~」

「そうだ、一歩いっぷ、ママがおまじないけてあげる」

「おまじない?」

「ほら、チチンプイプイ、いたいのいたいのんでけ~、みたいなアレ」

「アレかぁ」

ボクはすこ笑顔えがおになりましたが、かおさおだったようです。

ひだりひらに、右手みぎてで“くるま”って3かいいて、“アーン”ってむのよ」

「アーン」

ボクはママの真似まねをして、みました。

「じゃ、もうちょっとよこになってなさい。もうちょっとだから」

「ウン」

「少しハンドルのえをゆっくりにしてみるか」

「おねがい。そうしてあげて」

パパとママのこえこえたようながしたあと、ボクはすこねむったようです。

「さあ、いたぞ」

パパのこえめたら、山頂さんちょういていました。

「ほら、て。うみひかってるわよ、一歩いっぷ

「ホントだ。あのくろいのが、まえにフェリーでったしまだよ」

パパがさすほう島影しまかげえたけれど、

<どうしてオトナは “くろ”っていうんだろ、どうみても“あおい”のに>

すっかりくるまいを克服こくふくしたボクは、かぜやわらかなかみをなびかせながらかんがえていました。

「どうしたの、一歩いっぷ。ニヤニヤして。なにかいいことでもあったの?」

「ううん、なんでもないよ」


 頂上ちょうじょうからのりのドライブは、みんなでうたうたいながら山道やまみちくだりました。


  ♬ あき夕日ゆうひに やま もみじ

  ♬ いもうすいも かずあるなか


くるままどけていたら、いろづいたっぱが一枚いちまいんでて、ママがニッコリしてボクのにぎらせてくれました。

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