episode 7 ママ、お花が枯れちゃった

 「ママぁ、大変たいへん大変たいへんだよ~、おはなれちゃったよ~」

ボクがリビングのまどからにわると、ヒマワリも朝顔あさがおもぐったりしおれてしています。

 夏休なつやすみのある一歩いっぷくんとママは、おばあちゃんにひとばんとまりしてかえってました。

「あら、本当ホントだ~。パパ、今朝けさみずあげるのわすれたみたいね。こまったパパねぇ」

こまったパパねぇ」

大丈夫だいじょうぶよ、一歩いっぷ。おみずやりましょ」

 ボクはママといっしょにサンダルをくと、ホースでにわのおはなにおみずをあげました。

大丈夫だいじょうぶかなぁ」

心配しんぱいしないで、一歩いっぷ

ママは左手ひだりてしくミニトマトのっぱをさわっています。

「うわぁ、ママ。ほらママぁ~、て~! にじてる」

おおきなアーチをえがいたみずあいだに、ちっちゃなにじあらわれたのでした。

「ホントだぁ。ほら、一歩いっぷゆびれちゃうでしょ」

「だって、にじだよ、にじ!」

おぼえたばっかりのにじの“下半分したはんぶん”をようとくびおおきくかしげる一歩いっぷを、ママは笑顔えがおつめていました。

「そうだ、タオルでいたら、すこしお昼寝ひるねしましょ」



 かたむころ目覚めざめたボクはおもしたようににわかって一目散いちもくさん

 するとどうでしょう。さっきまでしおれていた草花くさばながすっかり元気げんきになっています。ピンとったっぱのさきから一粒ひとつぶ、さっきいたみずたまつくってちました。

「ママぁ、ママ~!」

くと、夕飯ゆうはん準備じゅんびをしていたママがボクをうしろからギュッっときしめてくれています。

「ミニトマト、大丈夫だいじょうぶかなぁ?」

大丈夫だいじょうぶ。でもればっかりつづくと、おはなも、お野菜やさい元気げんきがなくなるから時々ときどきあめってくれないとこまるのね。だから、あめらないときは、わりに水撒みずまきしてあげるのよ」

「ふーん」

一歩いっぷ幼稚園ようちえんからってたら、牛乳ぎゅうにゅうむでしょ」

「だって、のどかわくんだもん」

「おはな一歩いっぷといっしょなの、『ノドかわいたよ』って。だから、おみずをあげたあとあめったあとは、っぱがピンッって元気げんきになるの。いまみたいに」

「ピンッ、だね。ピンッ。ボクも牛乳ぎゅうにゅうとかジュースとかんだあとはピンッって元気げんきになるよ」

「そう。ママも元気げんきになるわよ」

「ママも?」

「ママはね、一歩いっぷ元気げんきでいてくれるだけで、元気げんきになれるけどね」

「じゃぁ、ボク、いっつも元気げんきでいるね。パパもさ、ママが元気げんきでいると、元気げんきるのかなぁ?」

「バカねぇ。オトナを揶揄からかうんじゃないの、一歩いっぷ

ママがボクのおでこを人差ひとさゆびやさしくつつくと、ボクはなんだかたのしくなりました。

「ボク、バカじゃないもん」

ママが今度こんどは、とがらせたボクのくちびるを、人差ひとさゆびやさしくかえしました。

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