第20話 新しいフレンズ


「あとどれくらい?」


「およそ5分ってところだな」


「意外ともうすぐだった」


現在、俺と父さんがいるのはサンドスター火山。サンドスターの数値を計測する機械を操作しながら、父さんはフィルターの周りをうろうろしてはぶつぶつ呟いている。データを録るのも大変なんだろうなぁ


「ありがとうコウ、一緒に来てもらって」


「お礼なんていいよ。この島の守護けものとして当然のことをしてるだけだしね。もしもの時は任せといて」


「…なら、改めてよろしく頼む。 あーあー、全ちほーに告ぐ。あと1分だ、各自備えてくれ」


無線機から無線機へ、父さんの声が各地へ届く。そして返事が各地からここへ届く。その時はすぐそこまで迫っていた


父さんを抱えて、空を飛んで一度離れる。強めの防御結界も張ればこれで準備は万全。父さんは機械を弄りつつ、カメラを火口に向けていた



「3……2……1……!」




ドーンッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!




「うっ…!?」


大きい、を更に越える大きい音を立てて、火山はサンドスターを放出した。その爆音はフードの上から塞いだ耳に入り込み、身体中を無理やり震わせてくる。これは凄まじい衝撃だ


降り注ぐサンドスターによって、空に虹が架かり、幻想的な風景が作られる。それだけは、素直に綺麗だと心から思う



━━あっそうだ。コウ、アオイから伝言を預かってるの



あの日、キュウビ姉さんから受け取った父さんからの伝言。それは、数日後に火山が噴火するというものだっだ


俺がパークに帰ってきてから噴火したことはないから、最後に噴火したのは10年以上前だ。んで、かばんさんが生まれたのがそれの一年前。サンドスター火山の噴火の時期はランダム、規則正しくなんてありはしない


「…うん、特に問題ないよ父さん」


「分かった。こっちはもう少し時間がかかる」


「了解、ゆっくりやってていいよ」


あんな衝撃でも、フィルターにも、それを作る石板にも、その傍にある社にも影響はなかった。その確認とお札の充電を終えたので、またいつも通りここを護ってくれる


ただ、サンドスターが降り注ぐということは、それと表裏一体のも降り注ぐというわけで


「…コウ、早速頼む」


「任せといて」


つまり、俺の仕事はここからが本番ってことだ



『グモモモモモ!!!』



空へ打ち上げられたサンドスターは、フィルターを通してるからそうなっているだけであって、元々はサンドスター・ロウ…セルリウムだ。それはセルリアンの元、つまりこいつらが生まれても不思議じゃない


今回は下側にトゲがついたやつと、三日月の形をしたやつだ。確か名前もそのまま『トゲ』と『ミカヅキ』だったかな。複数いるけど、強力なセルリアンでもないし一気にさっさと片付けてしまおう



「今回は──変身トランス・【フロスト】の気分かな」



食後のデザートを頼むような感覚で、能力を選んで表に出す。フェンリルオオカミの尻尾と耳、鋭い牙と爪が現れる


まぁ、今回これは使わないんだけど



『グオオオモモ!!!』


「はいはいストップー」


『モモッ!?』


「凍らせてー…ドーンってね」



両手をかざし、奴等の周りに氷の壁を生み出し固める。動きが止まったところで、両手を勢いよくパンッ!と合わせて叩く。すると、氷もまた同じように動いて合わさる。よって、氷の間にいる奴等は押し潰されてパッカーンだ


それを何回か繰り返して、ここの掃除はこれで終わり。あとは山中で生まれたかどうかの確認だけど、これは式神にお願いしてしまおう。さぁ行ってこーい



*



そして、暫くして


「…よし、十分取れた。待たせたな」


「ん、じゃあ帰ろっか」



*



「パパ帰ってきたー!」

「おかえりパパー!」

「おかえり」

「ただいま」


父さんを遊園地まで送り届け、現在家族と共にいるのはじゃんぐるにある新しく設立された研究所。ここで次の仕事へと移る。その準備はもう終わっているようだ


「こっちはどうだった?」


「すっごい音した!」

「ビリビリってした!」


「だが、問題はなかったぞ。あったとしても、今日は心強い応援もいるしな」


「あら、嬉しいお言葉ですわ♪」

「フフ、頼りにしてもらっていいわよぉ?」


応援はアカニシアフリカニシキヘビさんとコモモさん。その内容はセルリアン退治。あれだけサンドスターが降り注いだんだ、この周辺にも複数生まれている可能性は大いにある。言うなれば二人は守護者ガーディアン


そして、もう一人頼もしい応援がいる


「お待たせしました。今日はよろしくお願いします、ミライさん」


「はい、よろしくお願いしますね」


そう、ミライさんだ。彼女は本来さばんなを請け負っているんだけど、今日はかばんさんとサーバルさんに任せてこっちに来た。なぜミライさんがここにいるのか、それはこれから始まることに由来する



「ねぇ、ここに来れば色々教えてくれるって聞いたんだけど?」



早速来たね、1人目のフレンズが


俺達の仕事、それは新しいアニマルガール…フレンズを確認し、記録に残すこと。そして、当人にこのジャパリパークについての簡単な説明をすることだ


サンドスターが動物に作用すると、フレンズに変化するのは周知の事実。セルリアンが現れるなら、彼女達だって現れる可能性はある。よってこれは今、各ちほーで同時に行われている。生まれたばかりで何も分からない彼女達に、不安を抱えてほしくはないからね


ここまでの案内は、ジョフさん達や他のスタッフがしてくれる。この子がここに来れたってことは、ちゃんと連携が取れてるってことだ


「君は…『イリエワニ』のフレンズだね」


「『イリエワニ』…それが私なのね?」


「うん、そうだy」


「はい!イリエワニさんです!」


「えっ、な、なに?」


「イリエワニさんはワニ目クロコダイル科クロコダイル属に分類されるワニの一種でして、現生のワニ類および爬虫類の中では最大級の一種なんです!主に汽水域きすいいきに生息していまして、入江や三角州のマングローブ林を好むんですよね!イリエワニという和名もこれが由来になっていて、食性は──」


「はいお時間でーす」


永続罠【強制終了】を発動。ミライさんを一旦引き離す


早速不安とトラウマを植え付けそうなことはしないでいただきたい。イリエワニさんちょっとひきつってるから。大丈夫、これはこの人特有であってヒトの基準じゃないから怖がらなくていいよ


「あのー…すみません…」


「また誰か来たよ!」

「イリエワニちゃんに似てる?」


言われてみれば、確かに雰囲気が似てる気がする。この子もワニの仲間かな?


「こんにちは。ちょっと待ってね、君は──」


「貴女は『メガネカイマン』さんですね!」


「ひゃい!?」


「メガネカイマンさんはアリゲーター科カイマン属に分類されるワニの一種でして、眼の間に隆起があって、それがまるでメガネを掛けているように見える事からこの和名が付いたんです!主に淡水域に住んでいますが、汽水域や海に現れることも──」


「そこまでだミライ」


2度目の【強制終了】は妻のキングコブラが発動。永続だから何度も使えて便利


天丼ネタのようにやらなくていいんですよ。そんなぐいぐいやらず優しくゆっくり解説してくれればいいのに。そうすれば終了までの時間を少し伸ばすし、フレンズから引かれることもなくなるのに


ミライさんのことは置いといて…せっかくなので、二人一緒にジャパリパークについての説明会。フレンズやヒト、セルリアン等について軽く説明して、子供達からジャパリまんをプレゼント。二人とも笑顔で夢中で食べていた。分かるよその気持ち、初めて食べると本当に感動するよね



*



その後は少し時間を開けて、新しいフレンズのシロヘラコウモリさん、ゴリラさんが来た。そしてその度に解説しては止められるミライさん。永続罠は俺が連続で使ったよ


「ミライさん?どうかしましたか?」


「あっ、その…来たフレンズさん達、昔と姿が違うんですよね」


タブレットの画面を覗き込むと、確かにここに来た子達の姿は違っていた。例えばイリエワニさんの髪型がワニの口のようになってたり、メガネカイマンさんがリボンをつけていたりといった細かい部分や、全体的に服装が大きく変わっていたりもしていた。特にゴリラさん


前例はあって、コモモさんやホワイトライオンさんも昔と少し違いがある。これもサンドスターの性質なのかは分からない。何を持って、何に反応して変わるのかもまだ分かっていないところだ


ただ1つ確実言えるのは、どの子も優しくて良い子だってことだ


「でも新しいイリエワニさんも凛々しくてよりワイルド感がありますしメガネカイマンさんも三つ編みとリボンで女の子の可愛さがより引き出されてましたし本当に素敵でしたね!シロヘラコウモリさんもゴリラさんもまた違った良さがあってああそんなフレンズさんとまだまだたくさん会えると思うと私もうどうにかなっちゃいそうですうふふふふふ…!」


「アカニシちゃん、なんで耳塞ぐのー?」

「コモモちゃん何も見えないよー?」


「二人にはまだ早いからよぉ~」

「ジャパリまんのことを考えるんですのよ」


ナイス助っ人二人。教育に悪そうな顔と呟きしてるからそれは正しい判断です。アカニシさんもうその鞭で縛って…いやしたらもっと酷くなりそうだからしなくていいや。毒は…そこまでする必要はないな



ピピッ!ピピッ!ピピッ!



「おっと、すみません。 はい、こちらミライです。どうかしましたか? …え? …分かりました、確認でき次第連絡します」


「何かあったのか?」


「先程生まれたばかりのフレンズさんが、爆走してこっちに向かっているそうです。一応何かあったら大変だからと連絡が来ました」


爆走…?そんな元気いっぱいなフレンズが生まれたってことか?いったいどんなフレンズが──



「ここから旨そうなハチミツの匂いを感じるぜぇー!」



──成る程、この子か


鼻に絆創膏をつけた、学ラン姿のフレンズ。腕と脚に着けてあるサポーターのようなものが、更にワイルドな印象を受けさせる


「ミライさん、彼女は?」


「彼女は『ラーテル』さんですね」


流石ミライさん、即答だ


その名前は聞いたことがある。確か『世界一恐れを知らない動物』として記録に認定されている動物だ。時にはライオンやクマにも喧嘩を売り、蛇の毒をくらっても数時間後には回復するとかあったような



「にしし、良い香りがしてるねぇ~!」



それと、もう一人新しい子が来たな


頭に羽があり、前髪の額のところが赤く、横髪に丸い模様のようなものが入った、女学生のような印象のフレンズだ


「一緒にいるあの鳥のフレンズは誰だ?」


「あれは『ノドグロミツオシエ』さんですね」


こっちも即答。心の中で拍手を送ろう


その名前も聞いたことはある。その名の通り他の動物に蜜の場所を教える鳥だ。確かラーテルとは共生関係にあって、ハチミツの場所を教える代わりにそのおこぼれをもらう…だったかな


もしかするとこの二人は、動物の頃からずっと一緒にいるのかもしれない。現にフレンズの姿になって間もないはずなのに、既にとても仲が良さそうに話をしているし


「で、蜂の巣は何処だ?アタシが壊して追っ払ってやるよ。あんたらの分も取ってやるぜ?」


「いや、ここに蜂の巣はないよ」


「なんだと?ならあのスタッフとやらが言ってたハチミツって何処にあるんだ?」


「…ラーテル、どうやらあの丸いものからしてるみたいだよぉ」


「なに? …確かにしてるな。それはなんだ?」


「これはね、ジャパリまんって言うんだよ!」


「「ジャパリまん?」」


「すっごく美味しいの!はいどうぞ!」


そういえば、このジャパリまんはハチミツをたっぷり使ったやつだった。ジャパリまんの存在を知らないってことは、二人はスタッフの話を最後まで聞く前にここまで来たみたいだね。主にラーテルさんが突っ走った結果だろうけど


「なんだこれ!?すげぇ旨いな!」


「ハチミツにこんな使い方があるなんて…!」


「なぁ、もっと他にこういうのあるのか!?」


「あるよ!これハチミツのジュース!」


「なにそれ美味しそう…もらってもいい?」


「うん!皆で飲もー!」


ということで、出来立てのハチミツジュースを一斉にいただくことに。勿論、笑顔の花が咲きました




*




「結局、セルリアンの発生報告はなかったわねぇ」


すっかり外も暗くなり、作業も順調に終わりを迎える中で、アカニシさんがそう言った


「いないならいないで良いではありませんか。わたくし的には、毒の実験が出来なかったのは残念ですけどね…」


「コモモちゃん元気だして?」

「ジャパリまん食べる?」


「二人ともありがとうございます、いただきます」


心底がっかりしてるのはなんか複雑。そういえば俺のあげた毒はどうしたんだろ?まさか今回使おうとした新兵器(?)に仕込んでたのか?使うのはいいけど周りに被害は出さないでくれよ?


「運が良かった、ということだな」


「それでいいと思う。今日の仕事が減ったとも考えようか」


生まれる時もあれば、そうでない時もある。こればっかりは確率だ。もしかしたら明日明後日で、新しいフレンズやセルリアンになるかもしれないし


だからこそ、俺達は油断しない。この仕事は、あと数日は続くのだから


















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







誰も、油断はしていなかった




何があっても、対処出来るようにしてたはずだった




だけど、こんなこと、咄嗟に対処なんて出来なくて




これが現実だなんて、信じたくなかったんだ





「…どうして…どうして、そんなことに…?」





まさか、こんなことが起こるなんて、俺達は予想だにしていなかった

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