第19話 化かし合いで間違い探し


「改めて、久しぶりね」


「あれ?こっち来たんだ」


「せっかくだしね。先に到着して驚かそうと思ってたんだけど失敗しちゃったわ」


「それはそれは残念だったね~」


ジャパリまんに手を伸ばそうとした俺達の元に来たのは、遊園地にいたはずのキュウビ姉さん。俺達がろっじに入ったと同時くらいに彼女も到着したようだ。悔しそうな顔を上手に作っているので、わざとらしく煽っておいた


「あぁそうだ、今日はこっちに泊まるからよろしくね」


「それはろっじに?それとも俺達の家に?」


「後者よ。ちゃんとあなたの妻に許可は取ったしいいでしょ?」


妻が良いと言うのなら、俺も断る理由はない。一応来客用の部屋はあるしね


「まぁ私がいない方が、あなた達も夜のいとなm」


「外で寝るっていう選択肢もあるよ?」


「じょ、冗談よ。よろしくね」


全く、そういう話はしないでほしいものだ。デリカシーがあるんだかないんだか…。別に問題なくやrなんでもない


「それより、お昼はまだ食べてないんでしょ?お世話になるし、きつねうどん作ってあげるわよ?」


「そう?ならお願い──」


「ちょっと待てい」


「──はい?」


割り込んできたのは、タヌキのお頭イヌガミギョウブさん。ご丁寧に手を開いて腕を突き出している。漫画やドラマでよく見るポーズだ


「せっかくじゃから、わしが『たぬきそば』を作ってやろう」


たぬきそばか。地域によって乗っている食べ物は色々と違うけど、俺が思い浮かべたのはかき揚げや揚げ玉天カスが乗った温かいそばだ。イヌガミギョウブさんが割り込んできたってことは、おそらくこれのことを指していると思う


「コウはきつねうどんの方がいいわよね?」


「たまには違う味も良いとは思わんか?」


「疲れてる時には慣れ親しんだ味が一番よ」


「新しい刺激を受けた方が元気になるぞ」


「「……」」バチバチバチバチッ!


こんなことで争うのやめてくれない?やるなら他所でやってくんない?ここで妖怪の頂上決戦をしようとするな


というかなんでイヌガミギョウブさんはそんなこと言い出したんだろ?俺の手料理を期待していたはずだったのに。自分がそば食べたいだけなのか、単純に姉さんへ対抗しているだけなのか…


「コウはどっちがいい?」

「お主が決めるのじゃ」


正直『どっちでもいい』って言いたいけど、言ったら絶対に今より面倒なことになるのは明白。『どっちも』と言ったら、食後にどっちが良かったかと聞かれるだろうしなぁ…


「…じゃんけんで勝った方が作るってことで」


「…分かったわ、絶対に勝ってみせる」


「戯れ言を。勝つのはわしじゃ」


もう火花散らすのはいいから早くして?こっちは腹ペコだし子供達を待たせているんだから。もう俺ジャパリまんで済ませちゃうぞ?


「「最初はグー… じゃん… けん…!」」




*




「ごちそうさまでした」


「お粗末様。どうだった?」


「やっぱり美味しいね、姉さんのきつねうどん」


じゃんけんの結果は、キツネに軍配が上がった。隣にいるのはお酒を豪快に飲んでいるイヌガミギョウブさん、これが所謂『やけ酒』か


さて、エネルギーも充電したし、早く皆の所へ行きましょうかね


「ううむ…なら次は、で第2ラウンドといこうではないか。のうキュウビよ?」


…ね。いいわ、受けてあげる。精々頑張ることね」


あれとは一体なんなのだろうか?見当もつかないけど、やりすぎなければこっちは構わない。まぁ加減はさっきので分かってるだろうし、特に心配はいらないかな


「負けた時の言い訳、よく考えておくんじゃな」


「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」


「「……」」バチバチバチバチッ!


前言撤回。凄く心配になってきた。止める準備と覚悟はしておこう



*



「満足しましたか?」


「ああ、とても良い資料になったよ。ありがとう」


「報酬は貴女の漫画でお願いしますね」


「了解、完成を楽しみにしていてくれ」


戻ってきたら、オオカミさんとダンザブロウダヌキさんがそんなやり取りをしていた。もしかして今の今まで化け能力披露会してた?だとしたらよく彼女は付き合ってくれたな。流石は大将、器はとても大きかった


さて、妻と子供達の姿が見えない。先に遊んでいるのかな?


「まさかこんな速く見つかってしまうとはな」


「トウヤは探すのが得意なのね?」


「うん!なんとなくいるって分かるんだ!」


茂みから話しながら出てきたのは、トウヤに引っ張られる妻とサーベルタイガーさん。ここに来る前に遊んでいた子供達と合流し、そのままかくれんぼが始まったらしい


「シュリは?」


「タヌキを探してる最中よ。彼女も参加してるからね」


「タヌキがおるのか!?」


「え、ええ。貴女達は?」


「わしはイヌガミギョウブ。こっちはダンザブロウダヌキ。共にタヌキのアニマルガールじゃ」


「彼女はどちらに?」


「直ぐに来ると思うわ。悪いけど、終わるまで待っててくれない?」


サーベルタイガーさんのお願いに、静かに頷いた二人。表面では冷静さを保っていたけど、内心期待と不安でいっぱいのはずだ


オイナリサマとギンギツネさん、ヤタガラスさんとハシブトガラスさん、ヤマタノオロチさんとツチノコさん。昔守護けものと特に繋がりの深かった今世代のフレンズ達は、彼女達との記憶を取り戻した


そしてこの二人は、タヌキさんと特に繋がりが深かった。つまり、あの人達と同じ現象が起こっても不思議じゃない


「タヌキちゃんみつけたよー!」


「見つかっちゃいました~」


噂をすればなんとやら、今度はシュリがタヌキさんを連れてきた。先の二人と同じように引っ張られている彼女は、少し困りながらも嬉しそうだった


そして、彼女がこちらを向いた。正確には、二人のフレンズにだ


「っ…タヌキ…!」


「はい?貴女達は…………っ…………!?」


「…お久しぶりですね、タヌキ」


「…はい…はい…!お久しぶり…です…!」


眼から大粒の涙を流しながら、何度も頷いて、二人に抱きついたタヌキさん。一瞬戸惑う様子を見せたけど、心配は全くいらなさそうだ


彼女は今、昔の記憶と照らし合わせて、二人がいることを実感しているんだ。そして二人もまた、再会できたこの奇跡を、これでもかと噛みしめているんだ


「タヌキちゃんどうしたの?」

「どこか痛いの?」


「…違うよ。ずっと会えなかった友達に会えて、凄く嬉しいんだよ」


「嬉しいのに泣いちゃうの?」

「嬉しい時はにーって笑うの!」


「あはは…そうですね…!こんなに、嬉しいんですから…!」


笑顔を作って、また少し泣いて、また笑って


20年以上ぶりの再会を、彼女達は無事に果たすことが出来た



*



「さてキュウビよ、第2ラウンドはここでやろうぞ」


「いいわ、かかってきなさい。こてんぱんにしてあげる」


ちょっと待て、ここは皆の遊び場だ。大妖怪のバトルフィールドじゃないんだよ。臨戦態勢を取らないでいただきたい


「安心せい、何も殴り合いを始めるわけではない。わしらならではの勝負をちゃんとするわい」


「ならいいですけど…何をするんですか?」


「私達ならではの勝負といえば、やはり化かし合いです。ということで簡単にルール説明をします」


【化かし合い戦ルール】

・他のフレンズへの変化の速さ、精密さで競う

・2本連取で勝利

・審査員はその場にいた子達。複数いる場合は奇数になるように選抜する

・お題は公平を期して観客から出してもらう


これが、二人の言っていたってやつか。思ったより平和的なもので本当に安心したよ


今回の審査員は、オオカミさん、キリンさん、アリツカゲラさんのろっじ組。俺達家族、サーベルタイガーさん、タヌキさんは観客だ。俺達はキュウビ姉さん側、二人はイヌガミギョウブさん達側と判断されたので審査員ではなくなった


「コウ、何かお題を言ってみなさい?」

「全員が分かるもので頼むぞ」


それ意外と難しいんですが。子供達も会ったことのある子で、イヌガミギョウブさん達も知ってそうなフレンズだと…


「んー…じゃあ、ハクトウワシさんで」


過去のスカイレースにも出場していたし、ここにいる全員もよく知ってるし、なにより種族が全然違うからフェアになる。まずは簡単(?)なお題からで


「ハッ!」

「ほいっ!」


「「おおー!」」


『正義の味方、キャプテン・ハクトウワシ!』

『今日も1日、レッツ・ジャスティス!』


ポンッ!と音が鳴り、同時に二人の姿が瞬時に変わった。そして本当に言いそうなセリフも言った。流石にこれくらいはお手のものだったか


あと二人息ピッタリだね。実は仲良いでしょ


「さて、どちらが上手く化けているか、皆さん札を上げてください」


二人のデフォルメ顔が掛かれた、◯✕クイズでよく使われる札がいつの間にか用意されていた。これもダンザブロウダヌキさんの術で葉っぱか何かが変化したものだな


再び色々な角度から見て悩む審査員。そして、各々札を上げた


「おっと…満場一致でキュウビ姉さんの勝ちだね」


「なんじゃと!?」


「フフン、これが私の実力よ」


「ぐぬぬ…決め手はなんじゃ…?」


「僅かだけど、キュウビキツネの方が早かったね」


頷く皆。これは俺も思った。精度は互角だけど、姉さんの方が早く化け、決めポーズを取っていた。思いの外ちゃんと見ていたんだね


「因みに、トウヤとシュリはどっちだと思った?」


「キュウビちゃん!」


「あら嬉しいわ。それはなんで?」


「ポーズカッコよかった!」


まさかの理由で勝ってた。まぁスピードとか制度とかまだよく分かんないだろうからこれが正解といえば正解か


「次は私がやりましょう。敵討ちです」


「まだ決着はついとらんぞ?」


「負けたら交代です。ほら下がっててください」


ダンザブロウダヌキさん、イヌガミギョウブさんに対して結構圧かけることあるのね。でも慣れてるのか渋々納得して下がったよ


「次はキングコブラ、お題をお願いします」


「ふむ…ではミナミコアリクイにしよう」


アリクイさんか。きっと、二人がするポーズはあれだね


『『威嚇のポーズゥ!』』


やっぱりね。皆も予想していたようで、子供達も一緒にポーズを取っている


…おっと、もうちょっと見てたいけど、審査しないとね


「えっと…?全員ダンザブロウダヌキさんだね」


「くっ…!?」

「流石はダンザブロウダヌキじゃな!」

「当然です、私が化けたのですから」


「…ダンザブロウダヌキを選んだポイントは?」


「こちらの方が、ポーズから感じる迫力が少なかったところ…ですね」


確かにそうだけど、それ本人には絶対に言っちゃダメなやつだね。結構気にしてるから


「これで形勢は逆転ですね。このまま連取してあげましょう」


「言ってなさい。ここからが本番、勝ちは譲らないわ」


そういえば2本連取だった。なんか、決着がつくのはまだまだ先になりそうな予感がする



*



「ここまで食い下がるなんて…!」


「そちらこそ、やりますね…!」


「ふん…まだまだこれからじゃ…!」


…もうかれこれ数十分やってるけど、未だに決着がつかない。嫌な予感って本当に当たるよね。当たるな


「このままじゃ終わらなさそうだから、次はルールを変えてみないかい?」


「ルールを変える?」


「そう。こんな感じで…」ゴニョゴニョ


「ふむふむ…面白そうね」


「その提案、乗ったぞ」


「んじゃ決まり。キングコブラ、こっちに来てくれないかい?」


「ん?うむ」


うわぁ…なんか面倒なことになりそう。妻を拐ったオオカミさんと、後ろをついてくイヌガミギョウブさんとダンザブロウダヌキさん。大木の裏へ隠れ、何かこそこそしている


「コウ、トウヤ、シュリ、これが最後のお題だ。本物を当てられるかい?」


「…え?ママが…」

「ママが三人いるー!?」

「…成る程ね」


「勝敗は、君達が当てたらキュウビキツネの、間違ったらイヌガミギョウブ達の勝ちだ」


横に並ぶは三人のキングコブラ。全員腕を組み、ゆらゆらと尻尾を揺らしている。フードから尻尾から何から何まで見た目はそっくりな、パッと見間違いがないようにも思える間違い探しだ。表情も一切崩さないのは凄いな


ただ、嘗めてもらっては困るね


「あれ?もう決めたのかい?」


「決めたよ。トウヤ、シュリ、本物のママ分かったよな?」


「うん!」

「わかった!」


「んじゃ、せーのでいくぞ。 …せーの…!」


「「はいっ!」」


三人同時に、同じ方へ指を差す。差された彼女は微笑み、俺達に歩み寄り、そして少し強く抱き締めてきた。本当に嬉しいんだなって、そんな気持ちがよく伝わってくるよ


「まさか、即行で当てられるとはの…」


「これは予想外でしたね…」


これが家族というものだ。俺が、子供達が、彼女を間違えることは絶対にないと胸に刻んでおいてくれ


「さて、これで私の勝ちが決定したわね」


「うむむ…仕方ない、今日は負けを認めよう」

「『弱い犬ほどよく吠える』…ですからね」


意外とあっさり認めた。てっきり『次の勝負はー』とか言って伸ばすのかと思ってたよ



*



「…さて、たくさん動いたから腹が減ったのう。夕飯はコウが作ってくれるのじゃろ?」


「御一緒してもよろしいのですよね?」


「…はいはい、任されました」


口に合うかは分からないけど、遅くまで遊びに付き合ってくれたお礼に、存分に作らせてもらいます。皆もたくさん食べるだろうしね


余程楽しみにだったのか、我先にと行ってしまった。続けてろっじ組も、ハンター二人も、家族まで行ってしまった。いいや、俺はゆっくり追いかけよう


忙しくなるけど…こんな日も、たまには悪くないね


「あっそうだ。コウ、アオイから伝言を預かってるの」


「内容は?」


「えっとね…」


伝言に合わせて、軽い諸注意も受ける。これは後で両親やミライさん、長達とも話をしとかないとだな


それはこれから起きる、とある大きな出来事。これはパークの皆にも手伝ってもらわないといけない案件だ


この件は今以上に、とても忙しくなりそうだ

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