第24話 侵入者

——アッシュが剣聖レイに勝利して少し後の事。






「そうか、では来年の今頃には始められそうということでよいのか?」






「はい、陛下。既に軍の増強は完了しており、あとは新素材ミスリル製武器の配備さえ完了すればいつでも攻め入る事が可能で御座います」






ドレアス王国王宮内玉座の間では玉座に深々と座るドレアス国王ユーディーン=パブロ=ドレアスに対し、ドレアス軍の最高指揮官である軍務長官ベルゼス=レバンテオが報告を述べていた。


今この場にいるのは国王であるユーディーン以下それに次ぐ宰相と大臣が数名、それにユーディーン直属の国王親衛隊の5人の騎士のみであり、今、話されている事はここにいる人間を除けばドレアス王国内でも数名のみが知る軍事機密だった。




ベルゼスの報告にユーディーンは満足そうに笑みを浮かべて更に問う。






「それにしても神獣の領域にそんな物が眠っていたとはな。そのミスリルとやら神獣ドラゴンの鱗すら容易く切り裂くのであろう?」






「誰でも容易くとまではいきませんが、剣聖レイの実力を以てすればそのようでございますな。少なくとも耐久度切れ味共にこれまでの鋼鉄の剣を遥かに上回る性能ではあるようでございます」






国王ユーディーンの問いにベルゼスは自信を持ってそう答えた。




ミスリルとは1年ほど前に王都から南に離れた神獣の領域と呼ばれる神獣が多く住むエリアの一つである森付近で新たに発見された金属である。


普段は強大な神獣がいるとされる神獣の領域に近づく事は少ないのだが、今回はたまたま軍事演習でその近くまで行った騎士団の団員の一人が偶然地表部に出ていたミスリルを持ち帰った所、未知の金属である事が判明したため、軍お抱えの鍛冶師に一本の剣を作らせてみた。


その後の性能試験の結果、新たに発見された金属ミスリルで作られた剣は今までは最高硬度だと思われていた鋼鉄製の剣の強度を遥かに上回る事が分かったのである。




その後、ミスリルの有用性を理解したユーディーンは騎士団を使い、南の神獣の領域内の採掘調査を指示した結果、大量のミスリルが神獣の領域内の地下に埋蔵している事が判明したのだった。






「採掘中にドラゴンが出たのは想定外でしたが、ミスリルの剣を持った剣聖の相手ではなかったようですな。王都まで迫ってきた時は流石に胆を冷やしましたが、これでドラゴンに気にすることなく採掘は続けられるでしょう。これで我がドレアスは他国はおろか神獣すら恐れる必要がなくなります」






今まさにベルゼスが言ったことが先日起きた神獣ドラゴンの王都襲撃事件の真相だった。


王都に住む民衆は悪しきドラゴンが人間を喰らいに王都へと襲撃してきたと思っているが、先にドラゴンに手を出したのはむしろ騎士団の方でドラゴンからすれば自らの住処を荒らされた上に攻撃を受けたのに対し、反撃と報復を行っただけだったのである。




本来ならば怒れる神獣ドラゴンの前に成す術のなかったはずだった所に現れたのが新素材ミスリルの剣を得たドレアス王国最強の剣聖レイだった。


そして、普通であればまともなダメージを与えられるはずがないドラゴンの鱗にレイは次々と傷を負わせてドレアス王国建国史上初めてドラゴンを撃退に成功することになる。




ユーディーンはドラゴンの撃退成功の報告を聞いた時の事を思い出し、小さく笑みを浮かべる。






「まぁアレは別格としても、ドレアスが大きな力を得たのは事実である。これであの蛮族どもを根絶やしにする日も近いであろうな」






ユーディーンがそう言った直後——






「た、大変です!」






そう言って慌てた様子の兵士が玉座の間に入ってきた。


もちろん普段であっても玉座の間に許可なく入る事などあってはならないことだ。


更に今は重大な軍事機密の話をしている最中なので絶対誰も入れてはならないと厳命してある。


そんな状況だというのにノックすらせずに入ってきた兵士に軍務長官であるベルゼスが大きな怒鳴り声を上げた。






「貴様ぁ! ここをどこだと思っている!? 今は陛下と重要な話をしている最中だ! さっさと出て行け!」






そんな迫力あるベルゼスに兵士の男は一瞬怯んだ様子を見せたが、構わず報告を続ける。






「閣下! 今はそれどころではありません! 王宮内に侵入者です! 現在騎士団に応戦していますが、止められません!」






「なんだと!? 何者だ!? 帝国の暗殺部隊か? 剣聖は何をやっている!?」






兵士の報告に玉座の間に緊張が走る。


確かにドレアス王国は多方面に様々な敵を抱えているが、正面を切って王宮に突撃してくるなど普通は考えられない。


ただ頭のおかしい連中なら王宮に侵入する前に騎士団に抑えられてそこで騒ぎは終わりである。


わざわざここまで報告をしてくるという事は事態はかなり切迫しているという事だろう。






「いえ、それが……」






ベルゼスの問いに兵士は口ごもる。


そんな状況を見かねてベルゼスに代わりユーディンは玉座から立ち上がり自ら兵士に問う。






「なんだ? いいから申してみよ」






そんなユーディーンの問いに兵士は衝撃的な言葉を言い放つのだった。






「け、剣聖レイ様は既に敗北。未だ目を覚ましておりません。侵入した男は自らを偉大なる勇者アッシュと名乗っております」

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