第23話 お仕置き

「ほぉ?」






あいつ、魔法の知識もないのに、直前で体をひねって回避していようとしていたな。






恐らくは魔力探知でウィンドストームを察知したか単純な風の僅かな動きで察知したのだろう。


どちらにせよ大したものだと俺様は心の中で剣聖レイの評価を一段階上げた。


あれで完全に回避しようもんなら心の中ではなく声を大にして称賛の言葉を送ってやった事だろう。




とはいえ中途半端に避けようとしたものだから俺様が計算していた真後ろではなく少し角度をつけて吹き飛んで行ってしまったが、運良く騎士共や馬車をすり抜けたのは幸運だった。


騎士や馬車が邪魔でレイがどこまで吹き飛んで行ったかはよく見えないが、まぁかなり手加減もしたし死んではいないはずだ。多分な。






「邪魔だ、どけ」






俺様は騎士達の方に歩き出したというのに呆然としていて道を空けもしない騎士達に優しくそう促すと、俺様を避けるように綺麗な道ができた。






「き、貴様、何者だ!? わ、私をどうする気だ!? 私に手を出してみろ! ドレアス王国が貴様を許さんぞ!」






俺様は無視して通り過ぎようとしたのに、ルシードはなぜかわからんが、ブルブルとその場で尻もちをつきながら喚いてくる。


そんなルシードの前で立ち止まった優しい俺様は仕方なく無視するのをやめ、手のひらをルシードへと向け笑顔でこう言ってやった。






「なんだ? 相手にするのも馬鹿馬鹿しくなったから放っておこうかと思ったが、お仕置きが欲しいのか?」






そう言い俺様は笑顔のままルシードへと近づいていく。


ルシードも俺様から逃げるように尻もちをついたまま後退ろうとするが、すぐに馬車の車輪に背中がついてしまい追い詰められる。






「お、おい、何をする気だ。や、やめろ」






「なに、すぐ終わる」






「おい、やめろ、やめてく——」






「ばぁん!」






俺様が尻もちをついているルシードへと手を向けたままで大きな声でそう言うと、ルシードのガクッと意識を失った。




騎士達が唖然とする中、俺様は近くにいた騎士の一人に尋ねる。






「おい、そこのお前、王宮はどっちだ?」






「え、えーと、あっちです」






騎士がルシードの馬車がやってきた方向を指差したので、俺様は騎士が指差した方向を確認すると、確かに建物の奥に立派な建物が見えた。


見えているのは王宮の一部分だが、俺様達がいた世界の最大国家グレスデン王国の王宮と見比べても遜色のないレベルに見える。






「なるほど、金はありそうだ。おいっ、いるんだろ。お前らもさっさとこい」






俺様はそう言って、王宮へと向かい始めるのを止める根性のある騎士はこの場にはいなかった。




王宮へと向けて少し歩き、騎士達から離れた所まで来ると、何も無いはずの空間から声が聞こえてきた。






「アンタ、相変わらず無茶するわね」






「無茶? 王子如きが俺様にあんな態度を取ればあぁなるのは当然だ。まぁあんな無礼な態度を取られるのも久しぶりだったから不快を通り越して面白くかったがな」






偉大過ぎる勇者たる俺様に無礼を働けばアレくらいのお仕置きを受けるのは俺様がいた世界では常識だった。


だから当初こそはあぁいう無礼を働く輩はそれなりにいたのだが、魔王討伐に出る直前になる頃にはそんな輩はいなくなってしまったのである。






「そういやグレイスはどうした? 途中まで一緒に見てただろ?」






みみっちすぎる魔力で中々に確認は困難だったが、確かに俺様が戦っていた時にはエメルとセラと一緒に観戦していたはずだ。


馬鹿王子ルシードとは違い中々根性のあるやつだなと感心していたのだが、今は付いて来てはいないようだ。






「王宮に特攻するのに連れていけるわけないでしょ。近くの路地で魔法を解除して宿に帰ってもらったわよ」






別に王宮に挨拶しに行くだけなのに大袈裟なやつだと思っていると、エメルは更に言う。






「それで剣聖様はどうだった?」






「見ての通りだ。なかなか悪くはないぞ。育てれば雑魚ドラゴン数体など瞬殺に出来るくらいには育つぞ。アレは……ってこんなとこまで吹き飛ばされていたか」






俺様は雑貨店らしき店で倒れているレイの姿に気付く。


白く統一された服はズタボロに破れ、先程までの姿は見る影もないが、僅かに漏れ出している魔力から気絶しているだけだという事が分かる。






「アンタがそこまでいうとはね。まぁすぐには起きないでしょうし、また勧誘はあとね。今言ったってどうしようもないだろうしね」






気絶している剣聖レイを横目に俺様達は王宮へと向かう事にした。


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