第22話 剣聖の実力

レイが斬りかかってくるのを確認した俺様はすぐに剣を抜き、その場で構えた。


俺様から斬りかかるつもりはない。


とりあえずは様子見をするつもりだ。




レイの実力がどの程度かはまだ分からないが、俺様が本気を出してしまえばレイの実力を見る前に戦いが終わってしまう可能性が高い。




まぁその時は剣聖がその程度だったというだけの話だが、あとでエメルにグチグチ言われるのも面倒だからな。






そんなことを考えている間の一瞬でレイは俺様との距離を詰めてきて——






キィーン






レイが振った剣を俺様の剣が受け止めると、周囲に大きな金属音を鳴り響かせた。


そして、レイは少し驚いたように俺に言う。






「これを止めますか。やはり手を抜いて倒せる相手ではありませんね。貴方は」






「手を抜こうが抜くまいがお前じゃ俺様は倒せんよ。いいから本気でかかってこい」






「ふ、そうですか、では!」






レイはそう言ってどこか嬉しそうに俺様へと目にも止まらぬ(一般人目線では)連撃を放ってくる。


恐らく周りにいる騎士連中には剣の衝突音が聞こえるのみで何が起こっているかすら分かっていないだろう。


だが、それでもこの程度の剣で俺様の事を捕らえる事などできるわけがない。






とはいえ、なかなかやるではないか。






今も剣を振るってくるレイを前に俺様はそう評した。


確かに俺様の敵ではないのは間違いない。


だが、そんなことはやる前から分かりきっていた事だし、正直この世界の最強はもっと弱いものかと思っていた。




確かにこれ程の腕があるのならドラゴンを倒したというのも満更嘘でもないように思えるし、仮に俺達がいた世界の基準に当てはめたとしても、相当に名を馳す剣士となっただろう。






「しかし、惜しいな」






「何がです!」






俺様の言葉にレイは剣戟と共に言葉を返す。






「まさか知りもしない肉体強化魔法を使える事には驚きだが、使い方がなってない。魔力を体に巡らせる技術が未熟だな。まぁ俺様程の偉大過ぎる勇者になればそんなもの教えずとも自然にできてしまうものなのだがな」






「魔法? なんですか? それは!」






やはりこの世界の人間は魔法に関する知識を有していないらしい。


つまりレイは無意識のうちに肉体へと魔力を供給し強化していることになる。


普通それは師を得て学ぶか、独学で学ぶにしても指導書に基づいて会得していくものだが、こいつは魔法という概念がない世界でそれを無意識に会得してしまったというのだ。






天才という奴か。まぁ俺様程ではないがな。






恐らく、師を得て魔法を完全なものにすればガインの野郎以上に使えるくらいにはなる可能性をこいつは秘めている。






さて。






「もうお前の実力も分かったし、そろそろ終わらせていいか?」






俺様はレイの剣戟を受け流し、後ろに飛んで距離を取ると、レイに大きな声でそう尋ねた。


すると、何を勘違いしたのかレイではなくルシードが喚くように叫んできた。






「ふはは、馬鹿め。レイの猛攻に手も足も出なかった分際で終わらせるだと? 終わるのは貴様の方だ! さっさと死ぬがいい」






どうやらルシードには俺様がレイ相手に手も足も出ないように映っていたらしい。


そもそもルシードが俺とレイの戦いを見る事ができたとも思えないから、恐らくレイが負けるはずがないと適当な事を言っているようである。






「ここまで馬鹿だと笑えてくるな。お前みたいな馬鹿がいるドレアス王族に仕えているそいつに同情するぞ」






俺様が率直に思った事を思わず口に出すとルシードがなにやらキーキーとまた叫び始めたが、俺様はまったく興味がないので聞き流す事にする。


そんなルシードとは対照的にレイは無言で俺の方を見つめていた。


俺様はルシードを無視して改めてレイに向けて言う。






「本当はお前に合わせて剣でと行きたい所だったが、うっかり殺してしまってはかなわんからな。悪く思うなよ。——ウィンドストーム」






俺様はそう言って第3級魔法『ウィンドストーム』行使する。


第3級魔法と言えば、強力な魔法に思えるかもしれないが、目では視認困難な風の渦を前方へと飛ばすだけの魔法で同格の魔法の中ではかなり殺傷力が低い部類の魔法である。






「なにを?」






俺様が『ウィンドストーム』を行使した瞬間、レイは俺様が何をしたのか分からなかったのかそう呟いたが、次の瞬間。






「えっ、きゃあああ!」






レイはそんな叫び声を上げた後、俺様のウィンドストームを受けた風圧によって凄まじい勢いで後方へと吹き飛んでいった。


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