残酷で繊細。でも、それが世界の本当だと思う。

 主人公の「コーイチ」は見た目は「日本人」、でもフランスで長年暮らし、中身はどちらかといえば「フランス人」。そんな彼が14歳のときに、親の事情により日本へ移住します。
 序盤で語られる、彼の目から見る日本という国の描写は、人によっては新鮮で、人によってはひどく共感するものかもしれません。それは日本のほうが良いとか、外国のほうが良いとか、そういうことではないのです。
 その違いを認めて、受け入れられる社会であれば良かったのですが……物語はそこから、一気に暗いほうへと転がり落ちます。

 同級生、先生、親……きっとそれぞれに事情を抱えているのでしょうが、それらがあたかも全て悪いほうへと作用していくようです。多感な14歳の少年を襲う試練は容赦なく、読み進めるのが辛いこともあるかもしれません。
 一方で、フランス語のほうが慣れている「コーイチ」の一人称で語られる文章の中には、ときにハッとするような日本語選びに惹かれるのもこの作品の魅力です。

 この物語を極端な例と思う人もいるかもしれません。でも、それはどこかしら真実で、実際に誰かが感じている痛みを代弁しているものだと思います。共感も反感も、心当たりがあるから覚えるのではないでしょうか。
 多様性と口で説くのは簡単でも、気づかぬところで他人を傷つけていたりする。それが誰かをこんなにも苦しめ得るということが、読後考えるほどに重く圧し掛かってきます。

 心して読んでください。読み込むほどに、抉られます。それでも多くの方に読んでほしい作品です。

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