――未来の彼の幸せを願って。

 主人公は、日本の中学校に通うことになった紘一。
 フランスのパリで9年間生活していた彼は、父親の転勤で日本へ帰り、地方の中学校へ編入することになったのですがそこでは様々な問題が起きます。
 外国暮らしが長かったことに対するいじめや「言葉の壁」問題、紘一が同性愛者であるが故の葛藤。中学二年生という多感な時期であるということがさらに拍車をかけ、それらの問題が大きくなっていきます。

 多分『モグラの穴』は読む人を選ぶ作品だと思います。全ての人が「良かったね」と言えるようなものではないでしょう。
「寂しさを超えた孤独」「己の中に潜む日本ではない別の国で育まれたアイデンティティを理解されない悲しみ」「いじめがあっても、周囲に相談できず、自分の中に押し込め続ける怒り」「そして彼の身に起こった出来事とこれまでの全てを否定されたときに発現した、マグマが吹き上がるかのような激情」等々……読んでいるとこのような負の感情が渦巻きます。

 しかし紘一に起こる一つひとつの出来事は、きっと他人事ではありませんし、似たような経験をしている人たちも沢山いると思います。
 そのため一人でも多くの人が紘一の気持ちに寄り添ってくれたら嬉しいですし、彼の身に降りかかった出来事について、考えてくれたらいいなと思わずにはいられません。

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