第3話 詰んだ未来しか見えないんだけど?

「お、落ち着け……。と、とりあえず一度落ち着くんだ、玉国龍人」


 スマートフォンが使えず助けが来る可能性は絶望的という現実を突きつけられた俺は、パニックを起こす前に自分自身にそう言い聞かせた。


 ここでパニックを起こしても何にもならない。今ここですべきなのは、何としてもこの未知の異世界で生き残ることだ。そしてその間に艦獄ダンジョンシップの動かしかたをマスター出来れば、元の世界に帰れるはずだ。


「まずは持ち物のチェックだな」


 とりあえず俺は自分の持ち物や自分に出来ることを調べることにした。上手くすれば生き残る手段が見つかるかもしれないが、今持っている物なんて次の三つしかない。


 スマートフォン(ただし現在、電波が届かないためほとんどの機能が使用不能)。


 財布(中身は1219円と、レンタルDVD店とアニメショップの会員カードが一枚ずつ)。


 メイドもののエロぼ……紳士の参考書(特典のメイドエプロン付き)。


 ……うん。どう考えてもこのサバイバルな状況では何の役にも立ちそうにない。


「こんなことだったら帰る時に我慢せず、近くのコンビニで菓子やジュースを買っとくんだった」


 そうしていたら今頃は僅かばかりの食料と水が手に入ったのに。……いや、止めとこう。俺には後悔する前に、まだやるべきことがある。


「次は『三種の力トリプル』の確認だな」


 艦獄長ダンジョンマスターは体に宿った龍骨に体を改造された時に、封印を守るための三つの特殊能力を与えられる。それが三種の力だ。


 三種の力と呼ばれる三つの特殊能力はそれぞれ目的が異なっていて、その目的によって「剣」の力、「鞭」の力、「牢」の力と区別されている。そしてそれぞれの能力の効果や力の強弱は、艦獄長の素質と龍骨に封印された「何か」が持つ力によって決まる。


「それじゃあ、試してみるか……!」


 俺は早速三種の力の一つ、「剣」の力を使ってみることにした。龍骨のお陰か三種の力の使い方は既に頭の中に刻み込まれていて、三種の力を使うのはこれが初めてのはずなのに、まるで着なれた服を着るような自然さで「剣」の力を発動できた。


「剣」の力は外から来る敵から封印を守るための能力。その為「剣」の力は戦闘向きに能力になりやすく、どんな効果になるかは艦獄長の素質によって決まる。


「おおっ!?」


 意識を集中すると右手の中に光の玉が現れ、俺は思わず興奮してしまった。


 こんなに興奮したのは中学生の頃、使い捨てのマジックアイテムを買って魔法使いの真似事をした時以来だ。


 そしてやがて光が収まり右手の中に現れたのは……。


「………卵?」


 そう。俺の右手の中に現れたのは、鶏の卵よりも一回り大きな何かの卵であった。


 確か「剣」の力って、外敵と戦うことを目的とした能力なんだよな? 卵なんかでどうやって敵と戦えっていうんだよ?


「……次は『鞭』の力を試してみるか」


 気を取り直して俺は「鞭」の力を発現してみることにした。「剣」の力が卵を呼び出すことしかできなくても、「鞭」の力が強力だったら問題はないだろう。


「鞭」の力は艦獄の奥に封印されている存在に対抗するための能力。封印されている存在には自分の意思を持っているものもあり、それらが艦獄から「脱走」しないように、封印されている存在と対となる能力となる。


 俺が「剣」の力と時と同じように意識を集中すると右手の中に光が集まり、光が収まると俺の手は一挺の黒い拳銃を持っていた。


 おおっ!? これは中々アタリの能力じゃないか? 少なくとも卵を呼び出すだけの能力よりずっとマシじゃないか!


 能力で銃を作り出せたことで一気にテンションが上がった俺は、早速その銃を使ってみることにした。


「引き金は……これか? ……うおっ!?」


 銃口を空に向けて銃の引き金がある位置にある石に触れた瞬間、銃口からまるで爆弾が爆発したような火花が吹き出て、それと同時に無数の黒い礫のようなものが発射されたのが見えた気がした。


「び、ビックリした……!? これ、拳銃サイズの散弾銃なのか? 凄いな、これがあったらもし敵が出てきても何とかなるか……も……?」


 予想外の銃の威力に感動した俺だったが、その矢先に銃は俺の手の中で黒い砂となって消えていった。


 ……え? もしかしてこれって威力と攻撃範囲は大きいけど一発しか撃てないってオチ? ……ビミョー。


「正体不明の卵と一発しか撃てない銃を作り出す能力……。これじゃあ『牢』の力も期待できそうにないぞ、コレ?」


 自分の「剣」と「鞭」の力の意味不明さと微妙さに、俺はいよいよ絶望的な気分となった。


 最後の「牢」の力とは龍骨の封印を世界に固定して、場を作り出す能力で、つまり今乗っている艦獄そのものなのである。艦獄の内部は封印を守るためのダンジョンとなっており、そのダンジョンは艦獄長が持つ「剣」と「鞭」の力を最大限に発揮出来る構造になっているらしい。


 と言っても銃はともかく、卵を呼び出す能力を最大限発揮出来る迷宮って、どんなのだよ?


 俺は沈んだ気持ちのまま、一縷の望みをかけて艦獄の中に入り、そこにある迷宮の様子を確認することにした。すると……。


 そこには、ただ広いだけの空間が広がっていた。


 ……………はい? いやいや待って? この何も無い空間がこの艦獄、俺のダンジョン? 通路どころか壁一枚もない手抜きもいいところじゃないか?


 自分の現状を確認した俺には絶望しかなかった。


 持っている私物は何の役に立たず、艦獄長になって使えるようになった能力は正体不明の卵と一発しか撃てない銃を作り出すだけの能力で、トドメはこのただ広いだけのワンフロアのみという手抜きダンジョン。


 こんなの敵がやって来たら瞬殺されて、敵が来なくても三日もしないうちに餓死をする詰んだ未来しか見えないんだけど?

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