第2話 俺に海賊王にでもなれってのか?

「……………最悪だ」


 これも龍骨の機能なのか、目を覚ましてすぐに自分が艦獄長ダンジョンマスターになって、今いるのが艦獄ダンジョンシップの中だと直感で理解した俺は思わず呟いた。


 強大な力を封じて異世界を航る艦、艦獄とそれを操る存在である艦獄長。


 雹庫県民なら、というか男だったら一度は艦獄長に憧れるものだが、生憎と今の俺は艦獄長になりたいとは思っていなかった。何故なら艦獄長となった人間は、常にトラブルに付きまとわれるからだ。


 今でこそ滅多にないが、昔は艦獄に封印されている「何か」を得るために異世界から来た人達が、艦獄長を殺害する事件が多くあった。そして艦獄長を保護する法律とかができた現在でも艦獄にある封印、あるいは「艦獄そのもの」を求めた人達とのトラブルは年々増加している。


 俺は確かにファンタジーな出来事に興味がある。しかし自分が住む世界というか領分くらいは弁えているつもりだ。そんな一般市民の俺には艦獄長なんて荷が重すぎる。


 それに……。


「ここ、何処だよ?」


 艦獄の甲板上に出て辺りを見回すと、水平線が何処までも続いていて、陸地どころか島一つ見当たらなかった。


 いきなり船に乗ってどこまでも続く海を旅しろだなんて、俺に海賊王にでもなれってのか?


 元の世界に帰りたくても艦獄長になったばかりの俺は、まだ充分に自分の艦獄を動かすことが出来ず、異世界への転移も出来ない。自力で艦獄の動かしかたをマスターして、元の世界に帰還した艦獄は素質があるという話だが、別に素質がなくてもいい俺はすぐに帰れる手段を取ることにした。


「とりあえず助けでも呼ぶか」


 俺はポケットからスマートフォンを取り出した。身に付けていた物と買ったばかりでまだ見てもいないメイドもののエロぼ……じゃなくて紳士の参考書が一緒に転移されたのは不幸中の幸いと言えた。


 雹庫県で生まれ育った雹庫県民は、政府から無料でスマートフォン等の携帯端末を支給されている。これには異世界の技術が使われていて、所有者が無意識に体から出している生体エネルギーをバッテリーに使っている他に、外国どころか異世界にも通話が出来るという優れものだ。


 何故政府が雹庫県民限定でこれらの携帯端末を無料支給しているのかというと、この携帯端末が「発信機」だからだ。携帯端末は常に自分の位置情報を発信していて、所有者が龍骨を宿して艦獄長になれば、すぐにそれを政府に報せるようになっている。


 これは新しい艦獄長が生まれたらすぐに保護するためのもので、雹庫県民は全員携帯端末の所持を義務付けられていて、わざと放棄したりすると最大で五十万円以下の罰金が生じたりする。


 まあ、それはとにかく今では、艦獄長となって異世界に転移した艦獄長は携帯端末で政府に連絡を取って、政府から派遣された他の艦獄長に迎えに来てもらうのが普通になっていた。


「えーと、救助要請の緊急番号は……えっ!?」


 スマートフォンを操作して助けを呼ぼうとした俺は、電波状態が「圏外」となっていて何処とも連絡がとれないことに気づいた。異世界の技術も使ったこのスマートフォンの電波が届かない所なんて限られており、俺は最悪の可能性に気づいて顔を青くした。


「嘘だろ……? ここ、もしかして『未知の異世界』なのか?」


 現在仁本にほん国は七つの異世界と交流をしていて、同じ地球や交流をしている七つの異世界だったら何処にいても連絡がとれるはず。それなのに連絡がとれないということは、ここが地球でも交流をしている七つの異世界とも違う、全く未知の異世界であることを意味していた。


 え? 俺、マジで自力で元の世界に帰らないといけないの?

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