雹庫県民の艦獄生活

小狗丸

第1話 雹庫県に一度来てみるといい

 突然だが漫画やゲームのようなファンタジーな出来事に興味はないだろうか?


 妖精やドラゴンのようなファンタジー世界の住民と話し合ったり触れ合ってみたい。


 掌から炎を出す、他人の傷を一瞬で治す等の魔法を実際に見てみたり自分も使ってみたい。


 そう思える人は、是非俺の地元の「雹庫ひょうご県」に一度来てみるといい。


 仁本にほん雹庫ひょうご県。


 そこは無数の異世界の人々や情報がやって来る仁本で、いいや世界で唯一の「異世界交流地域」なのだ。


 何故雹庫県に異世界の人々がやって来るのかというと、全ては何万年も前にとある宇宙で一人の魔術師が「龍骨」というマジックアイテムを発明したことから始まる。


 龍骨とは対象の持つ力、あるいは対象そのものを封印した後、今いる世界とは別の世界の人間に宿って、その人間を封印を守るための防御機構に改造するというマジックアイテムだ。龍骨のシステムは発明者である魔術師の世界以外の様々な異世界に広まり、多くの人間や神々や悪魔に使用され、何千何万という大きな力を封印した龍骨が異世界へと旅立った。


 そしてその異世界へと旅立った何千何万という龍骨はどういうわけか、全てこの仁本国の雹庫県に集まり、そこで生まれ育った人間にのみ宿ったのだ。異世界の住人達は雹庫県に集まった龍骨に封印された「何か」を求めてやって来て、初めて異世界の住人が仁本に来た日からもう四十年以上の月日が経ち、今では雹庫県は完全なファンタジー世界となっていた。


 街並みは高層ビルが建ち並ぶ現代の街並みなのだが、周りを見てみれば人間の他にもエルフやドワーフに獣人が普通に歩いていて、空を見上げれば飛行船ではない海に浮かぶタイプの船が何十隻も空を飛んでいる。店を探せば異世界の特産品やら簡単なマジックアイテムも普通に買える。


 だからファンタジーな出来事に興味があるのなら雹庫県に一度来てみるといい。きっと退屈はしないだろう。


 しかしここで一つ注意。異なる国籍や種族の人が集まるとトラブルが起こりやすいものなので、観光をする場合は地元の人にガイドを頼んだ方がいい。実際に雹庫県にはアルバイト感覚で他所から来た人のガイドをしている人が沢山いるし。


 俺も出来ることならガイドをしてもよかったのだが生憎今は無理だ。え? 何故って? それは……。



 先程宿った龍骨が原因で、現在異世界にいるからです。



 これはさっき説明していなかったことだが、龍骨は宿った人を封印を守るための防御機構に改造する際、艦獄ダンジョンシップという艦を創り出すのだ。


 艦獄とは自分を創造した龍骨を宿した人にしか操れない、内部に複雑な迷宮や強固な地下牢を持って封印を守る艦の姿をした監獄。龍骨を宿して艦獄の主となった人間は艦獄長ダンジョンマスターと呼ばれる。


 そして艦獄には異世界に転移する機能があり、完成するとすぐに自動でどこか別の異世界に転移するように設定されている。これは龍骨に改造たばかりで無防備な状態の艦獄長の安全を守るためのものらしい。


 俺はメイドもののエロぼ……紳士の参考書(特典のメイドエプロン付)を買った帰り道に龍骨が宿って気を失い、目を覚ましたしたら俺一人しかいない艦獄の艦内で横になっていた。


 そういえばまだ自己紹介をしていなかったな?


 俺の名前は玉国たまくに龍人りゅうと


 生まれも育ちもここ、雹庫県降戸こうべ市。


 こうして今日、また新たな雹庫県民の艦獄生活が始まったのだった……。

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