エピローグ



 雨は、もうずっと降り続けている。地を打つ雨粒はやがて川となり、下流の街を潤していく。

 旅人が去ったあと、ラウラスは長いことベンチに座っていた。膝にはシロジムが丸まり、満足げな寝息をたてている。雨音はなお低くとどろく。あの日以来、ラウラスは初めて穏やかな心持ちでそれを聞いていた。


 雨とは異なる熱いしずくが頬を伝い落ち、吐息と共に嗚咽が流れ出た。クユーシャがここまで見越していたのかは定かではない。初めは復讐のための雨だったのかも知れない。しかし時と共に、雨はこびりついた憎悪と怨嗟すら流し去ってしまった。雨はやがて無垢となり、慈愛に満ちたものとなった。それはまさしく、かつてのクユーシャのように。


「クユーシャ……私をゆるしておくれ」

 暗い雨の中に、薔薇色の微笑を見た気がした。シロジムが、何やら寝言を言いながら、ラウラスの膝で小さく寝返りを打った。



<了>

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シロジムの雨が降る 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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