第7話 夜の宴



 バイクを走らせながら、頭の中で考える。

 さて、どこまで首を突っ込むか?



 厄介ごと、興味がないこと、だるいこと、面倒うなこと、色々と関わりたくないことは沢山あるが、田中の願いだけは仕方ない。


 奴以外はやっぱ、この学校では友達とはいえねーしな。


 それに、この前のことが引き金になっているのなら、俺に対して牙を剥いたことも同じだ。


 しかし、いよいよ面倒くさいよな。


 ☆


 場所はすぐに判明した。

 郊外にある飲み屋の座敷にいるらしい。

 ある筋には有名な連れ込み処だった。


 つまるところ、瞳を暴行して俺達に手を引かせようという魂胆だよな。

 古典的な嫌がらせでも、かなり傷はでかい。



 このまま野放しにはしたくないが、この事件で瞳の心は壊れてしまうだろうな。

 田中も再起不能になるだろうし、九重先輩も活動を自粛するしかない。


 とは言っても、俺が一枚噛んでいたのは相手にとって不覚だったな。


 さて、久々に華々しくやろう。


 遠矢の奴、やはりそこいらのもんとは違う。

 十万払うと約束したからには、俺が到着するまで見張りをつけているだろう。


 だから焦ることはない。


 さて、どうしてくれようか?

 飲み屋のレジに話に行き、裏口をおしえてもらた。


 もちろんタダではない。

 腹をグーで軽く撫でた。

 軽くしたはずが、店員は涙目になっている。


「だから、初めから教えていればよったろ?」


 何回か頷くが顔は見えない。

 大人が泣くんじゃねーよ!


 裏口を知った時点で店員を解放するも、そこで肩を握られた。


「んだぁ?」


 言った瞬間に頭をどつかれた。


「藤井っ、お前は更生したと聞いていたが? 今なら不問だが、それでもやるか?」


「あっ、山辺のおっさん。お久しぶりです。

 どうしてここに?」


「女子高生が誘拐されたらしいな。遠矢も抑えた。あとは、お前だけだ」


 ニヤリと笑うゴツい顔に逆らう気はない。


「いや、それならもう大丈夫だな。そう、俺のダチの彼女が捕まっているんだ。おっさん、よろしく」


 今度は握られた肩をぐいっとひっぱられ、暑苦しい顔を見る羽目になった。


「このイケメンの俺をおっさん呼ばわりとは、お前も相変わら命知らずだな。今ならまだ訂正できるが?」


「あっ、まあ、悪かった。イケメンの山辺さん。あとはよろしく!」


「おう、わかった。お前は彼女を送って帰れ」


 山辺のおっさんが指差した方向に九重先輩が立っていた。


 なぜここに?

 頭の中で思ったが、瞳のスマホをGPSでトレースでもしていたんだろう。


 なら、出番はここまで!

 しかし、遠矢の金はどうやって払おうか?

 成功報酬で裏生徒会からもらう予定だったが、あてが外れた。


 少し支払いを待ってもらうか。


 仕方ないよな。

 理不尽だよな。


 九重先輩が俺に近づくと頭を下げた。


「ええっと、かず君。お疲れ様でした。そして、ありがとう」


「礼はいらない。結果的には俺の出番は無かったし、ダチの借金だけが残ったわけだ。

 だから、もうこれで終わり。最後だ!」


「いやよ。あなたがいなかったら、この場所はわからなかった。だって、瞳のスマホは田中君が持ってたんだ。だから瞳の居場所がわからなくてとても困ったの。そんな時に田中君が君に依頼したわけ。あなたの昔の仲間なら大丈夫と言って」


「そうか、ならよかった。それじゃあ、お嬢はタクシーを呼んで帰りなさい」


 大通りまで出ると、車の流れがかなり増える。

 無論、タクシーもかなり走っている。


「ここでサヨナラだ」


 俺は押していたバイクに跨がりヘルメットを被る。


「ええっと、かず君はどうして、私のこと嫌いなの?」


 不満と不安が混じる表情、これはこれで可愛い顔だろうが、俺には生徒会なんて柄でもない。


「だから、今までは猫被ってたけど俺には無理ゲー。あんたがどうこうとかいう問題の前に自分の問題だ。いまさら、人助けとか面倒だ」


「そう、でも、今日はありがとう。私は諦めないわ。絶対にパートナーとしてあなたの隣に立ちたいもの! じゃあ、お疲れ様でした」


『勝手にしろ!』と心の中で呟き、バイクを発進させた。


 その後、うちに辿り着いて、シャワーを浴びた後、玄関のチャイムが鳴った。

 インターホン越しに田中が映る。


 零時過ぎだ。

 もう寝たいのだが奴は無視できない。

 ドアロックを外して、上がるように促すとリビングにやって来るなり頭を下げた。


「藤井すまない。お前に昔を思い出させるような真似をしてしまった。本当に悪かった」


 言っているそばから、田中は正座して頭を床につける。


 そこまでのことではなかったのだが?

 それより、今はことの顛末を知りたい。

 瞳はどうなったのだろうか?


「あー、うざい。田中、お前ってば本当にうざいよ! 今日は一仕事終えたんだ。さあ、今からはホッとする時間だろう。お前が持ってきたものが緩くならないうちに飲もうぜ!」


 ふと顔を上げた田中はホッとしたようだ。

 昔の俺を知る奴は特にこうなるだろう。

 でも、今の俺は少しは変わった。

 それを知ってもらうのも必要だろう。


「さて、遠慮なく頂くぞ!」


 そう言って、とても冷えたものを飲み込むと、その苦さに思わず笑いがこみ上げてきた。

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