第8話 なんで?

 夜中まで田中の話は尽きなかった。

 いかに瞳が可愛いか、というどうでもいい話題だが、目が据わった田中は、俺の「聞きたくねー」という言葉を無視し喋りまくる。


 つまり、俺でなくとも誰でも良かったのだろう。


 前から思っていたことだが、これさえ無ければ瞳とはとっくに付き合えていたのではないか?

 あまりにストーカーよろしく観察いていたら、そりゃあバレるだろ。


 現に瞳から「田中がうざい」という話を聞いたと誰かが話していた。

 無駄にイケメンというのはいただけない。


 そして今夜の田中もいただけない。

 まあ、好きな女が助かったから感慨深いのはわかるが、俺はもう寝たい。


 ぶつぶつ言っていた田中がテーブルに突っ伏して潰れると、タオルケットを被せ、俺もソファーに横になる。

 それから、意識が飛ぶのは五分も掛からなかった。



 ☆


 ブー、ブー。


 スマホの音か?

 まだ寝たいのだが?


 ノロノロと手を伸ばし、テーブルの上に置いたスマホに出る。


 スマホから誰かの声が聞こえるが、ボリュームが大き過ぎたので耳に当てるが、瞬時に手放した。


 耳元でキンキン声なんて聞きたくもない。


 それに加え、頭はガンガンするし、胸の奥がムカしいている。

 どうやら、まだ昨日のが残っているようだ。


 キンキン声が聞こえなくなったので、プッと切るが、再びスマホは鳴り始めた。

 まだ繋がっていたんだな。


 女子特有のキンキン声、女子の知り合いは高校に、入ってから作ったことはない。

 消去法で、九重だと思い、そのまま電源を切り、キッチンで、冷たい水を補給し、再び眠りについた。


 次に起きたのは、田中から背中を揺り動かされたからだ。


「おい、藤井っ。ヤバイよ。もう午後になる」


 ……あっ、二度寝してしまったしな。

 病欠とだけ、田中に連絡してって、あれれ、田中はここにいる。


 やばい。

 連絡する相手がいない。

 担任には絶対に連絡したくないが、無断欠席はいただけない。


 迷った末に、田中から連絡してもらいことを思いついた。

 瞳は、昨晩保護されて、今日は警察の事情聴取だろうから、残るは九重先輩しかいない。



 田中には色々な人脈があるから、誰かを使って俺も休むと伝えてもらえると助かるのだが。


 その旨、田中に伝えると二つ返信で了解された。瞳の親友、片瀬沙知に連絡してもらえるとのこと。

 これで心配事はなくなる。


「さて、田中? 昼はどうする?」


「んーっ、いつもならラーメンと言いたいところだが、今日は胃がやられてる。あと少しだけここに居させてくれれば、夕方には帰るよ。

 学校休んだなんてかーちゃんには言えないしな」


 ……ならカップラーメンにするか。


 ノロノロと立ち上がるとカップボードの棚から二つ適当に取り出してお湯を沸かす。

 こんな時はIHはお手軽でいい。


 お湯を注いで、割り箸を二膳用意する。

 イギリス国旗の絵柄のトレイに載せて、田中の前に運ぶと、メールが来る音が鳴った。


 ……だれかな?


 今日は休みと連絡したのだが?


 送り主を見ると九重先輩とわかった。

 まあ、メールアドレスは学校の緊急連絡先に登録しているから、それを使ったのだろうな。


 無視だ!


 内容も見ずに破棄する。

 暫く田中とカップラーメンを食べていると、今度は電話が鳴った。


 これも無視!!


 しかとしておけば、諦めるだろう。

 そう思っていたが、今度は田中のスマホが鳴り出した。


「おい、九重先輩だったら出るなよ」


「いや、まずいと思う。今なら間に合うから連絡してくれているのかもしれない」


 そう断言すると、通話ボタンをタップした。

 暫く話をしていたが、段々声に元気が無くなってきた。

 通話が終わると、田中は俺の顔をじっと見てため息を吐いた。


「おい田中、人の顔を見てため息とは失礼だ」


「いや、それは悪かった。しかし、藤井、お前も俺も逃げられなくなった」


 そう一言言うと、田中は自分のスマホを俺に見せた。

 その中には、二人で乾杯している姿が写っていた。

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