第4話 昼飯怖い


 昼休みのチャイムが鳴った。

 それとともに俺の気持ち、モチベーションはだだ下がりした。


 前の席の田中をつついて、「ばっくれる」と告げたが、もっと悪い方になるから諦めろと忠告を受けた。


 普段なら無視するところだが、俺が拳を握り田中星人の目の前に見せるが奴は怯まなかった。

 これで怯まないことはほぼない。

 ということは、また面倒くさいことに巻き込まれた可能性がある。


 仕方ない。

 一応、状況を把握してから再検討としよう。


「昼飯を買ってくれるから、待っててくれよ」


「あっ、藤井、ご飯はいらない。というか、夢乃が用意していると思う」


 ……ふーん、田中星人はこれからなにが起こるのか、想像できているということか。


 面白い。

 ここで田中に聞いてもいいが、あれほどひた隠しにしているということは、俺の感からして少しは楽しいこともあるのだろう。


 田中に案内されて、やって来たのは二階の奥、生徒会室隣の会議室の前、その隣は理事長室で、そのまた横は校長室となっている。


 普段ならこんな所にはくることはない。

 単に必要がないからだ。

 軽めのノックを会議室ですると、『どうぞ』という声が聞こえた。

 しかし、九重先輩の声とは違う。


 少し緊張感が高まる。

 田中に開けるように視線で指示する前にドアが、内側に開いた。


「待ってたよー!」


 うっ、これは九重先輩のお姉さん、じゃなくてお母さん?


 ──なぜここに?


 長いテーブルの後ろに九重先輩とうちらの学年では一番の人気者、椎名瞳がいるではないか?


 ……これはなんという罰ゲームなんだ?


 チラリと田中を見るが、田中星人は俯いたままだった。

 なら、九重先輩のお母さんから説明してもらおうか。


 心の中で気合いを入れ直し、臨戦態勢になる。俺の瞳は血走り眼光は鋭く、見るもの全てに突き刺さる程だろう。


 長めの前髪を後ろに流すと出来上がり。

スダレでインキャを装っていたが、もう構わない。昔のヤンチャな血が止まらない。


「あらっ、かず君ってばやっぱりカッコいい〜!」


 九重母の一言目に面食らった。

 というか、折角高めた緊張感が抜けてしまう。

 こんな風に緊張感から解放されるとバカバカしさに色々なものが見えてくる。

言うなれば、視野が広がるということだ。


 確かに、テーブルの上にはご馳走が載っている。もし、あれを食べるのなら、昼ごはんを買っても食べきれない。


 なかなかお昼ごはんが始まらないのだが、その雰囲気を破ったのは、意外な人物だった。


「ようこそ、藤井君。夢が色々と助けてもらったことにはお礼を言わせていただきます。

 では、お昼を楽しんでください。

 お昼ごはんのあと、夢からお願いがあるかもしれませんが、強制ではないから断って頂いても構わないことだけは覚えておいてください。では、ごゆっくり」


 にこりと微笑んで、退室する老婆はいかにも上品で、昔は美人だったと断言できる。


 しかし、誰だろう?


 こそっと田中に誰だか聞いてみたら、田中から奇異の目で見られた。


「俺達の学校の理事長だろうが! お前も絶対に知ってるよな!」


 はて、そう言われればなんとなく見た感じはする。


 しかし、ばーさんには興味ねー!

 俺の守備範囲はあまり広くない。

 上は二歳、下も二歳程度だろうか!?


 それに加え、清楚で髪は長い方が良い。

 もち、でるとこはでていて欲しいし、健全な青少年なんだから機会があれば大人の階段を駆け上がりたい。


 可愛いくてまNGなのは、あざとい女だ。

 少しぐらいのあざとさは可愛い範疇だと思っていた。


 だが、つい最近……ここ二日ばかりで苦手になった。苦手というよりは、『生理的に受け付けない』と言った方が適切だろうか?


そうこう頭の中で考えているうちに昼食が始まった。


 ……昼からコース料理とはどんな神経をしていやがるんだ?

 こんなの食べたら、あとで胸焼けがするに決まっている。


 それにしても、みんな当然とばかり行儀良く食べるよな。

 俺なんて、お冷やさえ喉をとおらない程、緊張しているというのに。


「ねえ、かず君。どうして食べないの?」


 あざとい先輩が心配してくれているが、まさか緊張して食べられないとは口が裂けても言えない。

 末代までの恥になってしまう。


 暫くして、やっとパンだけを口にするが、この後の話を聞いて全ての食欲が無くなった。


 それは思いもしなかった話だった。

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