第2話

“みーくん、見て! 成績上がって志望校にも行けそうだから、買ってもらえたの!”


 目を見て話してるだけなのに、上目遣いが完成するあきちゃん。携帯電話を両手で包む。いろんな要素が可愛く思えて、口が動いたんだ。


 あきちゃんの事が、好き。


 寒さで赤くなっている頬に、ひとすじ流れた。一点をみつめたまま、あきちゃんは手の甲で涙を拭っていた。それからは気まずくて、会う頻度も減り、疎遠。親同士で関わりもあり話題を振られたりもしたけど、つまんなそうに反応した俺に「まぁ相手は女の子だもんね。いろいろ言われても困るね」と、話すことが無くなった。



 生暖かい風が、意識を現実へと戻した。時々、夢に出てきては、中二の頃だし勢いでなんて……仕方ないと振り払う。でも本当は、変なこと言ってごめんと謝りたい。

 宿題の途中で眠ってたようだ、肌に纏わりついた汗がノートをふにゃっと曲げていた。開いてる窓、時折大きく揺れるカーテン。田植えの真っ最中か耕運機の音、苗の緑が遠くまで続いている。机の引き出しから少しはみ出た紙、幼馴染みのあきちゃんが書いてくれたメールアドレス。赤外線で済んだのに知らないから、まっさらなノートを破って書いてた。ゆっくりと引き出しを開けてもとの位置へ仕舞う。

 ゲーム内での呼び方はどうしよっか、で本名らしい秋人という名前から、アキちゃんが良いと俺は言った。居心地の良さから、幼馴染みのあきちゃんとを重ねたかったんだと思う。秋人は俺を、みーくんと言い出した。知り合いに美冬という男がいて、似てるらしい。言葉のやり取りしかない、顔を知らないのに似てるって何だと笑って流した。


 お互いに、名前がいっしょの知ってるひと。


 まさかね。


 スマホに通知が入った。『久しぶりに、おつかいクエストやろーっと』アキちゃんの呟きだ。村の男の子が採集をする話。狩人に憧れて男の子は村から出たがる、そこで母親は薬草を取ってくるようにとおつかいにした。心配だからプレイヤーが端で見守っててほしいというクエスト。ゲームで一番はじめにやらないといけないものだ、基本の動きを覚える為に。


 なんで今さら初級クエストを? まぁいいや、覗きに行こう。



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