21: everything must go

 人の噂なんて身勝手なもんで、しばらくすると誰もなにも言わなくなった。それから浅彦の話題も出なくなった。 俺はあいつが完全に消えてしまったことに気づいて、その、喪失感っていうか、そういうローな感情に溺れながらも日々平和に過ごしていた。あいつが死んだ理由を追求したりはしなかった。つーかできなかった。最後に会った時とかも、やっぱり思い出せねえし。


 なんとなく、掛川さんに会いたいと思った。あの掛川スマイルを見ながらなんか話せば、ちょっとは落ち着くかと思った。でも俺はあの人の連絡先を聞いてなかった。それくらいテンパってたんだと気づいて、もっと鬱になった。

 そんな風にじたばたしながらも俺は、結局まだ生きてる。変化は、あった。 弘明は親父さんと暮らすようになって真面目に夜間行ってるし、城戸さんはなんとちゃんとした就職が決まって好青年になったし、星野のおばちゃんは娘さんの同居の申し出を断って相変わらず元気だし。学校も、衣替えして冬服になって、あと柏木がなんかの病気で入院しやがって桐原が担任代理になって、 体育がサボれなくなった。屋上は、三年のアホが煙草吸ってたのが見つかって立入禁止になった。


 そこで俺は違和感を覚える。 浅彦はあそこで止まったまま。俺はなんか知らんがどんどん流されてる。遠い存在がもっと遠くなってくような気がして、俺は悲しくなる。

 机に肘をついて頭を抱える。周りの連中はたわいもないおしゃべりに熱中してる。俺はそっと耳を塞ぐ。チャイムが鳴るのを祈るような気持ちで待つ。 前に座ってる女子が肩をつんつん叩いた。顔を上げるとプリントが置いてある。何かの文字が、目に入る。


 思い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る