20.アキラ、突き刺す。

 バケガニは刻一刻と近づいてくる。まずい、このままではここも見つかってしまい危ない。


だが、僕は走って逃げることができない。一体どうすれば、正解なのだろう。


せめて、イリスだけでも逃げてくれと彼女の手を握り、伝心する。


だが、イリスはそれを頑として拒む。彼女の目は僕を見つめる。


その目は覚悟が決まったようであった。


イリスは僕を見捨てない。彼女の強い意思に頼もしさを感じるほどであった。


ああ、彼女は強い人だ。ここで死んでいい人じゃない。


そう思い立った瞬間、生きねば、テラの元へと戻らなくてはその感情が込み上げてくる。


その感情につき動かせられるかのように、頭が突破口を考える。


「あのバケガニに何が効く・・・。何かあるはずだ。何か、何かが。」


出来ることはないかと、頭をフル回転で働かせる。


ふと、今の自分の状況を思い返す。


「なぜか、僕の細胞はあのバケガニの細胞に打ち勝つことができている・・・。」


その問いの答えが、この状況を打開してくれるような気がして必死に考え抗う。


そして、ある方法が脳を駆け巡る。


「宿主、この方法しかないとお考えなんですね・・・。わかりました、宿主の賭けに私もお伴しましょう。」


僕の考えを把握した精霊さんはこの方法を即座に理解してくれる。我ながら、狂ったことを思いついたものだと笑いながら、でもその狂気でしか今の窮地を変えれない。


そう悟るのであった。



∴ ∴ ∴ ∴ ∴



 バケガニが段々と近づいて、弓矢の射程内に近づいてくる。


死への運命が足音を立ててくる。一か八かの賭けに己の身体を賭ける。それに狂気が暴れて、恐怖が笑いが込み上げてくる。これから起こす行動は狂気がないと出来ない・・・。


さぁ、我が理性、狂え狂え。だが、感情よ、最後まで静寂であれ。そう自分を振る立たせ、感覚を研ぎ澄ませ、奴が来るのを待つ。


気配を告げる緊張が最高潮になり、退路が絶たれる。


ついに、その時がやってくる。


 僕は物陰から再びバケガニの両目を捉えて、狙いを定めた瞬間、雷の力を矢に込めて、解き放つ。


一筋の閃光が、こちらを捉えた敵視の両目を一瞬にして吹き飛ばして消え去る。


それを僕は認知した時には、生存本能に反旗を翻した右手が矢を握る。


そして、歯を食いしばりながら、左脚の傷口に矢尻を突き刺す。


「ッ!!! 」


鋭い刺す痛みが身体中を駆け巡り、感覚が狂気の行動を制止しようと激痛を脳に送る。


そして、引き抜き、すぐさま弓を構え、渾身の力で引いて放つ。真っ赤に染まった己の肉片がついた矢は、再生し始めた奴の細胞に突き刺さる。


「まだだ、まだ足りない。」


痛みが拒絶反応を起こそうが僕は手を止めなかった。そして、何度も同じように矢を傷口に突き刺し、また射る。


痛みが臨界を越え、麻痺した頃、バケガニの不死にほころびが出始める。


「クギャクギャクギャクギャ」


初めて、奴の苦痛を聞いた。醜い肉腫は、ただれはじめ気味の悪い液体を滴り崩壊の時を迎える。


僕は立膝の状態から、止めの一矢の稲妻をブチ込むのであった。


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