21.アキラ、手を合わせる。

 不死の再生能力を失った無秩序なバケガニの身体は、黄色い液体と体液を吹き出しながら萎んでいく。


その光景、それに先程まで感じていた気配も消え去り、完全にバケガニが息絶えたことを感じさせる。


ゆっくりと生の実感が湧き始める。


「ああ、生きてる…。」


その言葉しか出なかった。


そして、思い出したかのように、左脚のことを見る。


傷口は見るからに痛々しいほどにグチャグチャになり果てていた。ちょっとでも動かそうと言うものなら、激痛が走る。痛い。


「アキラ……。どいらけったけて。」


そうイリスが手を握り、心配そうに僕を見つめる。


イリスの青色の瞳は潤んでいて、美しかった。思わず、見惚れていると精霊さんが話しかけてくる。


「宿主、傷口の表面は電気で応急処置しておきましたので、これ以上の出血の心配はありません。ところで、宿主、良い知らせと悪い知らせがあります。なんと先ほどのバケガニの毒攻撃により、宿主の細胞達が増殖・活性化しました。それにより、この傷も2日もすれば元通りになるのではないでしょうか。あと身体の免疫力も格段に強くなっています。」


「なにそれ、怖い・・・けど、便利そうだね。」


それを聞いた精霊さんは、


「おお、そう考えていただけると悪い知らせもポジティブに捉えてくれそうですね。その増殖・活性化によって、宿主の身体は今、突然変異が起きてあらゆる器官が異様に発達し始めているのです。」


精霊さんは、僕の身体に異常がないかを確かめ始める。


「やっぱり、起き始めましたか・・・。宿主、今、あなたの骨の骨密度が段々と密になってきています。その代わり、徐々に血中カルシウム濃度が低下しています。」


「つまり、どういうこと・・・? 」


僕は恐る恐るそれを聞く。


「どこかで、カルシウムを大量摂取していただけないと、身体に不備が生じし始めす。」


わぁ、衝撃的だ・・・。


「それよりも、今はテラさんの元に急ぐのが先決です。」


 そうだな、早く急ごう。そう思って歩こうとするが、左脚の感覚がまだ完全には戻っておらず、ぎこちなく危なかしい歩き方になってしまう。


イリスがすぐに肩を貸してくれて、なんとか介助で歩くことができるほどであった。恐竜のことを思い出し、投げ出された場所まで行く。


すると、そこには酷いほどに切り刻まれて捕食された恐竜らしき死体が横たわっていて、僕はこれをやったのが、あのバケガニであることをすぐさま理解し、自分が反撃するまでの時間を恐竜が稼いでくれたのだと、心の底から感謝の念が湧き立つ。


僕は手を合わせずにはいられなかった。すぐにでもこの場から、離れなければ血の匂いを嗅いだ他の捕食者にも襲われる心配があった。それでも、死なせてしまったこと、ここまで運んでくれたことに対していろんな思いを伝える。


その後すぐ、僕達はテラの待つ家へと向かっていくのであった。

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