引きずり込まれた

うまくいえないが、無駄がなくてすごい。というと、〈作品の狙いがある一つの効果(オチ、シーン)に絞られていて、その狙いに向かって作品のすべてが収斂していく〉ことが想像されるかもしれないが、そういう話ではない。
作品のどこを読んでいる時点でも、その読んでいる部分の強度(インパクト? リアリティ?)がすごい。私に〈さて話はこれからどう展開するのかな〜?〉などという、読者として安全圏にいるからこその余裕を抱かせることなく、起きていくことだけに引きずり込む。
その意味では、先述したような〈オチに収斂する〉作品とはむしろ対極かもしれない。そういう作品は、オチだけに強度を集中していて、他の部分は強度あるオチをへもっていくための道具だから。
でもじゃあ、どの瞬間も強度あるのを連打してくるせいで、結末の印象が弱まり閉じた感がなくなるんじゃないかと心配されるかもしれないが、それもきっちりクリアしてくる。
理屈づけるなら、〈(健全な状況なら)健全な見解〉を作中唯一結末で発揮することで、異常が日常と化してしまい、そのちっぽけな健全さにすがって異常状況下で過ごしていくしかないと決まった語り手の、これまでと質の一段異なった絶望が生まれている、ということだと思う。
ほんとうに惚れ惚れする。