自覚
今作は“白野 音“を本名とします
「おじいちゃんは音の命の恩人なんだよ」と母親は言っていた。それを聞いてもっと話しておけばと思った。
私は高1くらいまで父親から暴力を振るわれてきた。髪の毛を掴まれ顔を思いっきり叩かれ殴られる。そのたびに母親の止める声や妹の泣き声を聞いていた。殴られた夜は父親に寝てる間に殺されるんじゃないかって声を押し殺して、泣きながら布団にくるまっていた。19になった今でもはっきりと覚えている。なんでそんなことをされたかって、ちょっと勉強をしなかっただけ、ちょっと駄々をこねただけだった。本当にちょっとしたことでも殴られてきた。そんなことだから父親が怖い。いつ殴られるか分からないのが怖くてたまらなかった。
そして19になって一か月くらいしたとき、父親に話がしたいから来いと言われた。
「なにから話そうかな。音にな、言わなきゃいけないことがあるんだ」
「うん」
「パパなママと話して別居することにしたんさ」
「うん」
「なんでかって簡単に言うと、パパはママとやってくに疲れたんだよ」
特に驚きはなかった。父親に車で学校へ送って行ってもらったときなどにそう言われていた。ママが嫌だと。たまにそう言っていたのを思い出した。
それからはなんでこうなったのか深い理由や、今までのことを聞いた。
「音には相当厳しくしてきたと思う」
「うん」
「それには理由があって。まあその理由ってのがこれなんだよ。パパはもうその時点で疲れてたから、音が18で就職したら離婚届置いて勝手に出ていこうと思ってた。で、出て行ったときに音がちゃんとしてればママとか妹とかもやっていけるからと思って相当厳しくしてきた。でもお前が進学したから、それは神からお前はまだダメだって言われたのかもしれない。でもそれはお前が就職しなかったからそれができなかったとかじゃないから、そこは勘違いするなよ」
別にそこにはなにも思ってなかった。正直そっちより厳しくしてた自覚と理由があったことに驚いた。でも私はとあることを知っている。
18の7月、父方のひいおじいちゃんが亡くなった。お通夜の前だろうか、地域の人がたくさん来て線香などをあげていた。その時にひいおじいちゃんのことを母親から聞いた。
「おじいちゃんは音の命の恩人なんだよ」と。本当はおろすはずだった。そんなところで、ひいおじいちゃんが育てればいいと言ってくれたらしかった。
じゃあ。じゃあ俺は父親からも母親からも望まてない命だった、生だった。父親と母親のエゴでできた塊。でき婚じゃないと思ってたし望まれて産んでくれたんだと思ってた。でも違う。結果的に父親と母親は俺を望んでいたわけじゃない。
それで母親から離れたいから俺に厳しくしてきたって。なんで。全部両親のエゴじゃんか。そんなことならやらなきゃ良かった話じゃないんか。そのエゴのために暴力を振るわれてきた。そんなためだけにここまでボロボロにされてきた。おかしいこと言ってることに気付いてないんだろう。本当に苦しかった。
「なんか別居とか色々について正直になにか言ってほしい。何言ってんだ、頭冷せってのでも全然いいし。なにか言ってほしい。」
そんなこと言ってても、本当に言ったら殴るじゃん。望まれてない命なんでしょ、そんなこと言われても。疲れた? 俺だってそんなこと聞いて疲れてるよ。嫌だ? こっちだって嫌だよ。そんなことで俺は長年暴力振るわれたくなかった。父親と母親の問題をなんで俺で解決しようとしてたの。
だから俺は
「別にいいと思う。俺は1月までアレと付き合ってたけど別れた理由は成長できないと思ったからだし、その状況と同じような感じだから」と答えた。
今でもあの頃の出来事が怖い。だから正直に言えって言われても正直になんてなれなかった。
成長できてないのはきっと父親と母親、そして私もなんだろうなと思った。
今日のできごと 白野 音 @Hiai237
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