第16話「求む!スペシャリスト②」
「俺はグリフォン、そして巨人を呼ぶ」
「はあああっ!?」
「おいおい、声が大きいぞ」
驚き叫ぶ私の唇を、微笑んだアーサーは、
優しいキスでふさいだ。
キスされたら、いつも私は気持ちが高揚しうっとりとするのに、
今回だけは例外だった。
戸惑い興奮し、落ち着かない事この上ない。
アーサーが私を放し、ようやく息をする事が出来た。
もしかしたら……びっくりしすぎて過呼吸寸前だったかもしれない。
「だ、だ、旦那様!」
「おう!」
「お、おうではありませぬっ。グリフォンに巨人……もしも我が父、いえ帝国に知られたら、とんでもない事になるやもしれません」
「ああ、なるだろうな」
相変わらずしれっと、そして淡々と言うアーサー。
「だが、グリフォンも巨人も要は使い方だ」
「使い方?」
「うむ、どちらにしても俺が述べた優先順位は変わらぬ。まずは金、次に人、そして情報に王国の資金殆どを投入する。あとは全てこの3つに付随する」
「…………」
「はは、分からぬか、イシュタル。この3つにプラスアルファをもって、富国強兵の目標をより万全に達成する為、時間稼ぎをする。グリフォンも巨人も、その為の抑止力にすぎぬわ」
「抑止力……ですか」
「おう! このふたつをお前の故国アヴァロンの魔法兵団に置き換えてみよ。帝国がどうしてすぐ攻め寄せないのか、良く分かるであろうよ」
「防衛戦に滅法強いアヴァロンの魔法兵団と同じ……グリフォンも巨人も……な、成る程っ!」
……故国アヴァロンの魔法兵団は防衛戦に最も力を発揮する。
それに城館も不落の名城。
攻め方……つまり敵国は、こちらの10倍以上で攻めかけないと、落とせないと言われているのだ。
つまり……グリフォンと巨人が手駒であれば抑止力になる……
仮想敵国であるガルドルドは、我がアルカディアを簡単に攻めないという事なのだ。
「よっし、分かったようだな! では前置きはそれくらいにして本題に入ろう」
ええっ?
今までの話は本題ではない?
私はさすがに驚いた。
「ほ、本題にですか? これからが?」
「おう! 話を戻すぞ。俺はお前の力を借り、このアルカディアをアヴァロン以上の魔法王国にせねばならぬ」
「はいっ! 追いつき追い越せ、アヴァロン……でございますね」
「その通り! だが、言うは易く行うは難しという、すぐというのは難しい」
「そう……でしょうね」
「と思わせておき、短期間で成し遂げれば周りは皆、吃驚する」
「は? ど、どういう意味でしょうか?」
「俺は軍を人を、そして情報を……全てを手っ取り早く金で買う」
「全てを金で……手っ取り早く……」
「うむ、聞け、イシュタル」
「は、はい! 聞かせて頂きまする」
「軍の主力は貴族家にひもづく騎士とその従士達だ」
「確かに! アルカディアだけでなく、どこの国でもそうでございますね」
「うむ、それらの代わりを全て金で買う」
金で雇う兵と言えば、傭兵である。
私はすぐアーサーに告げる。
「な、成る程! では傭兵を雇うのでございますか?」
「うむ、傭兵は雇う。しかしそれだけではない」
「それだけではない?」
「おう、先日俺は王都で口入屋を営む猿の夫婦に出会った」
「さ、猿の夫婦に?」
何、それ?
猿の夫婦?
ポカンとする私を見て、アーサーは豪快に笑う。
「ははははは、安心しろ。猿と言っても人間の男女さ。その口入屋という商いに俺は大いに興味を持った」
「大いに興味を……で、ございますか?」
「おう! 口入屋とは、奉公人の周旋・仲介をなりわいとする者を言う。補足すれば口入れとは、中に立って両者の間を取り持つことだ」
「は、はい! な、成る程ですね!」
「分からぬか、イシュタル。俺は王国経営の口入屋を作るぞ! だが取り持つのは召使いや奉公人だけではない。戦士、魔法使い等々、全てだ」
「あ!」
な、成る程!
金で軍を買うとは、そういう事か。
「うむ! ここまで言えば気付いたか?」
「はい!」
アーサーは……お金で軍を買う。
彼にとって使い勝手の良い、軍隊を作る。
人間関係や農繁期等で、制限がかかる軍隊を全く変えてしまうのだ。
「俺が営む口入屋は軍を構成する為だけに限らない。それに国内の者だけを取り持つのではない。国内外の優秀な者を吟味し、仕事をさせる」
「な、成る程!」
口入屋は、外部の人材を管理するのは勿論、クォリティも精査するって事。
質も量もクリアするって事か……さすがだ!
「今ある仕事を全てをどんどん外部へ発注する。外部の者の働きが良ければ容赦なく、担当を切り替える。優秀な外部の者はどしどし取り立てる」
「で、でも旦那様」
「おう!」
「外部の者を雇う給金というか……プロに対する報酬は段違いに高いのでは?」
「うむ、高いだろうな」
「で、では……難儀するのでは?」
「ははははは! 報酬は全て出来高、つまり成功報酬とする」
「あ! それなら!」
「はは、そうだ! こちらの依頼に対し、見合う結果を出せば、けちらず金を払う。期待以上であればさらに割増金を払う」
「良き結果を出せば、その分多くお金を支払う。依頼の受諾者はやる気が出るかもしれませんね」
「うむ、だから王国で雇っている者、つまり元から居る公務員の給金体系もガラリと変える。勤務態度は勿論、良き結果を出せば引き続き雇用し、ど~んと給金を上乗せする! 逆も然りだ!」
「成る程!」
「外部の者も、優秀なら身分、出自にこだわらず雇う。生え抜きの者と競争させる! こうして我が王国は家臣団を充実させる」
「はい! 宜しいと思います」
「イシュタル!」
「はい!」
「我が王国の魔法兵団は、しばらく外部の者中心となるだろう。だがいずれアヴァロンのように育成の為の学校を作る」
「御意!」
「それまで、指導者候補、実務向きの者など、外部の者の人材の見極めを、俺とお前のふたりが中心となってやるのだ」
「はいっ!」
「それとな……俺は魔法を使った新たな兵器も考えておる!」
魔法を使った新兵器!?
何、それ!!
アーサーはどこまで懐が深いのだろう。
私やエリザベス、いえ、マッケンジー公爵に告げていない事も、
たくさんあるに違いない。
う~、燃えて来たっ!
王国の為に素晴らしい魔法使いを、国内外からたくさん集めよう!
気合が入った私は……
今度は自ら、アーサーの唇へ熱いキスをしていたのである。
帰蝶よ花よ、夢幻の如くなり! 東導 号 @todogo
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