第15話「求む!スペシャリスト①」

 先日朝食を摂った際、

 いきなり私イシュタルと義妹エリザベスは宰相補佐に任じられた。


 これって異例の大抜擢。

 古来女性の王や宰相が居なかったわけではない。

 だが血縁的な繋がりや伴侶が亡くなり暫定的に務めたというのが殆ど。


 そのような意味で言えば、私とエリザベスも同じ。

 しかし周囲が止むを得ず、押し付けたという事情ではない。

 アーサーは私達の能力を大いに買い、指名したのだ。


 そうは言っても、私もエリザベスも政務に関しては全くの素人。

 全く勝手が分からない。

 一体どうするのかと思い、関係した政務の書物だけ読み込み勉強、

 指示を待っていたら……


 まずはマッケンジー公爵による政務のレクチャーが行われた。

 初心者編という感じで、基礎の講習を受ける。

 

 出席者は私とエリザベス。

 初回のみ、アーサーも同席。

 相変わらず火花を散らし合う、私とエリザベスを面白そうに見つめていた。


 やはりアーサーは、私とエリザベスのライバル心を使い、

 並び立たせるつもりなのだ。


 でも授業を受けるのは久しぶり……

 故国アヴァロンでの魔法学校以来である。

 あの頃、一緒に勉強した学友達は、今どうしているのだろう……

 気分が学生時代へ戻り、ちょっとだけ感傷に浸った私。

 

 でも私は、ライバルのエリザベスに負けじと必死にメモを取り、

 マッケンジー公爵へ質問を速射砲のように浴びせまくった。

 当然、エリザベスも私と張り合い、一歩も引かなかった。


 ここ1週間、講習は数回行われ、まだまだ続くらしいが……

 ようやく私は、このアルカディアの政務の流れを学ぶ事が出来た。


 しかし私は甘かった。

 学ぶのは政務の基礎だけではない。


 アーサーの意図が更に分かって来た。

 権限を持たせる為、宰相補佐にしたのは、私達にマッケンジー公爵の手助けだけさせるわけではない。

 

 最初に出された『宿題』を完遂するように命じられていた。


 アーサーはまず私達をスペシャリストにするつもりなのだ。

 私は魔法、エリザベスは財務というように。


 実際、アーサーはすぐ魔法に関して相談を投げかけて来た。

 それも合理的にというか、時間を有効に使うと言うか……

 何と!

 愛し愛し合う行為の後に、話をして来たのだ。


 そもそもアーサーの愛情行為はパワフル。

 とことん愛され……

 ぐったりしている私へ容赦なく言葉が告げられる。


「イシュタル」


「は、はい!」


「世間でお前は、アヴァロン漆黒の魔女と呼ばれている。俺も調べたが、得意な魔法は何だ?」


 うっわ!

 単刀直入。


 そもそも魔法使いは自分の得意な魔法をひけらかしたりはしない。

 奥義と呼ばれる魔法は尚更だ。


 騎士だって戦士だって己の得意技は他言しない。

 何故?

 答えは簡単。

 戦闘前提で、手の内を簡単には見せないって事。


 どう答えようか……

 魔法の初歩は生活魔法。

 私も子供の頃に習った。

 魔法使いは生活魔法を習得してから、更に難度の高い魔法習得へ挑む。


 補足すると、生活魔法とは本当に簡単な魔法。

 文字通り、かまどに着ける火を起こしたり、炊事に使う水を湧かせたり、

 洗濯物を乾かすくらいの風を吹かせるくらいのレベル。


 まさか生活魔法だけ使えますと言うわけにはいかない。

 嘘がバレバレだもの。


 実は……

 私イシュタルは、複数属性魔法使用者 マルチプル

 風、水、土の3つの属性を持つ 魔法使い。

 父は火と風のふたつの属性魔法を使いこなす複数属性魔法使用者 マルチプル


 通常、魔法使いが使う属性魔法はひとつだけ……

 他の属性魔法を使えない事はないが、効果効能が著しく落ち、

 魔力も相当多く使ってしまう。

 それゆえ属性以外の魔法を使うなど滅多にしないのだ。


 父からは絶対に他言しないよう厳命されている。

 私の命綱だもの……


 でも、正直に言おう。

 私はアーサーを信じ、彼と一生添い遂げると決めている。


「ええっと……実は」


「ああ、言い難いか。まあ無理もない」


「え?」


「俺から先に言おう」


「は、はい……」


「俺はな、火と風の属性魔法を行使する複数属性魔法使用者 マルチプルだ』


「ええええっ!」


「お前と一緒さ、イシュタル!」


「は、はい!」


「まあ、さすがに全属性魔法使用者オールラウンダーではないがな! ははははは!」


 あらららら、こ、この人「しれっ」と言っちゃった!

 そして私の事も……バレてるみたい。


 ちなみに全属性魔法使用者オールラウンダーとは文字通り、全ての属性魔法が使える魔法使い。

 そんな天才はここ数千年現れていないと、父は言っていたっけ……


 でもアーサーは相変わらず優しい!

 先回りして、私の事を気遣ってくれた。


 と、なれば!

 私も遠慮は要らない。


「旦那様! 仰る通り、私も風、水、土の3つの属性魔法を行使する複数属性魔法使用者 マルチプルです」


「ははは、やっぱりか!」


「はい! あと合成魔法も多少たしなみます」


「おお、さすがだな!」


 合成魔法とは合体魔法とも言う。

 ふたつ以上の属性魔法を合わせ、より劇的な効果効能をもたらす魔法である。

 当然、行使可能な魔法使いは滅多に居ない。 


 少し自慢げに言っていたかもしれない。


 しかし……


「合成魔法とまでは行かないが、俺も召喚魔法を使うぞ」


 召喚魔法?

 使い魔でも呼ぶのかしら?


 召喚魔法とは、異界から人外の魔族を呼び出し、契約。

 使役する魔法である。

 ちなみに使い魔とは……

 お運びやメッセンジャーなど簡単な用事を頼む召使的な魔族、

 犬、猫、鳥など動物が多い。


 と、思っていたら……


「俺はグリフォン、そして巨人を呼ぶ」


「はあああっ!?」


「おいおい、声が大きいぞ」


 驚き叫ぶ私の唇を、微笑んだアーサーは、

 優しいキスでふさいでいたのである。

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