第5話 変わる日々

いきなりの約束でドキドキしている。

なんせ、ほぼ知らない人なのだから。

ただ、職場の人の妹なので全く知らない人って訳ではないのだが。

服もいつもと変わらない地味な感じで。

とりあえずスカートは持ってく事に。

少し早いがお店に向かう。

いつもは通り過ぎる人を見ることなんかないのだが、今日はなんか違う。

若い女性が気になってしまうのだ。

多分久しぶりに服を買いに行ったりしたからだろう。

他の人がどんな服を着ているのか、どんな髪型をしてるのか、どんな化粧をしているのか気になってしまう。


…みんな綺麗だな。私なんか。


自分に自信なんかない。

見た目を気にした事もない。

今自分がなぜこんなに色々気にしてるのか。

そんな事考え店の前で待つ。


店員「あっ、今お店閉めるから。」


ガラガラ

店のシャッターが降りてくる。


…こんな若さで自分の店か。すごいな。


店員「お待たせーっ!」

店員「そういえば、まだ名前言ってなかったような?ってお姉ちゃん知ってるのか。」

店員「私、ゆかです。」

かすみ「私はー、」

ゆか「かすみちゃん!」

かすみ「え?なんで。」

ゆか「さっきお姉ちゃんに電話したの。」

ゆか「お姉ちゃんの職場の人誘っちゃったから一応報告。その時名前聞いたの。」

かすみ「あっ、はい。」

ゆか「あっ、敬語なしでっ!」

かすみ「えっ、でもー。」

ゆか「私達、同じ歳みたい。お姉ちゃんに聞いたのー。だからさっ。」

かすみ「あ、うん。」

かすみ「あの、ゆかさん、」

ゆか「ちゃん、でいいよっ!」

かすみ「あの、ゆかちゃん」

ゆか「なーに?かすみちゃん。」

かすみ「これからどこへ?」

ゆか「あっ、そーそー。」

ゆか「もし、かすみちゃんが嫌じゃなければ私の家に来ない?」

かすみ「ゆかちゃんの家?」

ゆか「と言っても、狭いアパートだけど。」

かすみ「うん、迷惑じゃなければ。」

ゆか「うん。じゃあ決まり!」

ゆか「少し歩くけどっ。」

かすみ「大丈夫。」


女の子の友達もいないかすみ。

こんな風に女の子と一緒に歩く。

今までなかったかもしれない。

少しワクワクしていた。


かすみ「えっ?こっちなの?」

ゆか「うん。もう少し川の方。」

かすみ「この辺りは…」

ゆか「知ってるの?」

かすみ「私住んでるの、あのアパート。」

ゆか「えーっ!私のアパートの裏だっ!」

ゆか「偶然ねー。」

かすみ「うん。びっくりっ。」

ゆか「こっち。二階ね。」

ゆか「あの角の部屋。」

かすみ「はい。」

ゆか「どーぞー。」

かすみ「あ、おじゃまします。」

ゆか「あっ、窓開けっぱなしだ。」

かすみ「あーっ!」

ゆか「どうしたの?」

かすみ「そこ私の部屋。」

ゆか「へーっ!これまた偶然。」


ゆかの部屋の窓の前が、隣のアパートのかすみの部屋の窓だったのだ。

建物は結構密集しているので、窓と窓は結構近く会話もできそうな距離。


ゆか「すごい偶然ね。」

ゆか「なんか仲良くなれそーねっ。」

かすみ「あっ、うん。」

ゆか「そこ座ってて。」

ゆか「お腹すいてない?」

かすみ「あっ、少し。」

ゆか「じゃっ、ちょいとお待ちー。」


冷凍ピザに、冷凍ポテト、サラダは今簡単に作ってくれたもので。


ゆか「簡単でごめんねー。」

かすみ「えっ、全然。美味しそう。」

ゆか「どーぞっ。」

かすみ「いただきますっ。」


過去こんな事あっただろうか?

友達の家で一緒に食事したり。

普通の女の子らしいこの感じ。

なんかうれしかったのだ。


ゆか「こんなに近くだったんだね。」

かすみ「ホント、窓開けたらすぐ。」

ゆか「じゃあ、本題に。」

かすみ「あっ、はいっ!」

ゆか「ズバリ!デートでしょっ?」

かすみ「いやっ、そんなんじゃ、ただ、ご飯に行く事になって。」

ゆか「彼氏は?」

かすみ「いない。今まで一度も。」

ゆか「へー、真面目なんだー。」

かすみ「私、根暗で、人見知りで、無趣味で見た目も地味だから、そのー、」

ゆか「もーっ、そんな事ばっかり言ってるんでしょっ!いつもっ!」

かすみ「えっ?」

ゆか「そうやって色々避けてきたんだ。」

かすみ「…うん。」

ゆか「ごめーん。私思った事すぐ言っちゃう悪いとこあるの。ホントごめんねっ!」

かすみ「いいの。初めて。」

ゆか「えっ?なにが?」

かすみ「人にそう言われたの。」

ゆか「うわーっ、怒ってる〜?」

かすみ「いえっ、嬉しくて。」

ゆか「えっ???」

かすみ「私、友達いないから、そんな風に言ってくれる人もいなかったし。」

ゆか「そういう事かっ。」

ゆか「これからは私が言うよっ!色々。」

かすみ「ゆかちゃん。」

かすみ「ありがとう。」

ゆか「よしっ。でっ、いつ?食事?」

かすみ「明日。」

ゆか「おーっ、すぐだー。」

ゆか「じゃあ、メガネとって、髪ほどいて、こっちの鏡の前来てっ。」

かすみ「はいっ。」

ゆか「髪はアイロン使ってー。」

ゆか「前髪少し軽くするねっ。」


慣れないヘアアイロン、化粧も、初めて見る自分がそこにいた。


ゆか「どーお?」

かすみ「うわーっ!私じゃないみたい。」

ゆか「特別な事はしてないのよ。化粧も軽くって感じだから。」

かすみ「別人みたい。」

ゆか「これもかすみちゃんよっ。」

かすみ「ウソみたい。」

ゆか「私が思った以上の美人!」

かすみ「うん。綺麗かも、私。」

ゆか「悔しいくらいに美人よっ!」

ゆか「だから自信もちなって!」

かすみ「うん。なんか少し勇気が湧いてくるような。」

ゆか「見た目だけじゃないけど、見た目も大事ってこと!」

ゆか「メガネとって見えてる?」

かすみ「私、実は目悪くないの。」

ゆか「じゃあなんでメガネ?」

かすみ「人前で自分の顔あまり見られたくなかったから。」

ゆか「えーっ、美人なのにー。」

かすみ「学生時代ずっと、ブスって言われてきたから。」

ゆか「どんだけ美人多い学校なのぉ〜?」

かすみ「私がブスなだけ。」

ゆか「でもさっ、今の自分を見なよ。」

かすみ「今の私?」

ゆか「私は最初からかすみちゃんがブスなんて思ってなかったよ。」

かすみ「ありがとう。」

ゆか「ありがとうは言わなくていーのっ!」

かすみ「でもー。」

ゆか「友達、なんだからさっ!」

かすみ「友達?」

ゆか「あーっ、私じゃ迷惑?」

かすみ「いやっ、迷惑なんて、すごく嬉しいのっ、なんか初めてだから。友達。」

ゆか「もー、その癖なおしなーっ。」

かすみ「えっ?」

ゆか「私なんか〜、みたいな発言っ!」

かすみ「あっ。」

かすみ「うん。気をつけるね。」

ゆか「じゃあ、さっき教えた通りに明日もちゃんと化粧するのよっ!」


すぐ裏に、少しサバサバしたタイプの友達ができた。

人生初の友達。

日々が少しずつ、変わってゆく。


第6話に続く

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