第4話 突然

あれ以来セイヤには会う事がなかった。

と言っても、まだ1週間だが。

なんか頭の中に引っかかって。

誰にも会わずに一人で歩く。

これが今までの散歩。

ずっとこうだったはず。


わんっ


かすみ「あっ、コタローくん。」

男「こんにちは。」

かすみ「こんにちは。」

男「コタローが喜んで走りだしたら必ずあなたがいる。いつもそんな感じです。」

男「ホントにあなたに会いたいんですね。」

かすみ「私もコタローくんに会いたいんで一緒です。」


わんっ


かすみ「よしよしっ。」


久しぶりの癒しの時。


男「あっ、来月この川のずっと上流で花火大会あるらしいですね。」

かすみ「はい。毎年ここから見てます。」

男「ここから見えるんですね。」

かすみ「結構大きく見えますよ。」

男「そっかー。ここだったらコタローと一緒に見れるなぁ。」

男「今年もここから?」

かすみ「はい。でも、ここもまあまあ混むんですよ。」

男「そうなんですね。でも、隅っこでもどこでも花火見れたらいいです。」

かすみ「花火好きなんですか?」

男「僕、結構人見知りで花火大会とか行った事なくて、ここならコタローもいるし。」


自分と同じだと、少し思った。

花火大会みたいな人混みが苦手なので、ここから花火が見れるのがすごく楽しくて。

1年の中の少ない楽しみのひとつ。

だから今年も結構楽しみにしている。


男「花火大会、晴れるといいですね。」

かすみ「そうですね。」

男「それじゃ。」

かすみ「じゃあ、また。」


他人と話して、じゃあ、また、と自然に出るくらい人と話すのも慣れてきていた。

だか、その事に本人は気づいていない。

折り返しの場所まで歩いてきたが、まだ陽は沈まなそう。


セイヤ「あーっ、こんにちは。」

かすみ「あっ、こんにちは。」


なんか今日は緊張する。

なにを意識してるのか。

普通にするんだっ!

そう自分に言い聞かせる。


セイヤ「いやー、あれ以来全然会えませんでしたねー。」

かすみ「そうですね。」

セイヤ「今日は会えて良かったー。」

セイヤ「あの、駅前のイタリアンのお店知ってる?」

かすみ「えっ!?あっ、知ってます。食べたことはないですけど。」

セイヤ「あの店のパスタ美味しいんだ。行こうよ。一緒に。」

かすみ「えっ!?」

セイヤ「あっ、パスタ嫌いだった〜?」

かすみ「いやっ、パスタは好きですけど。」

セイヤ「いつ行こうか?」

かすみ「あ、いつとかは〜。」

セイヤ「じゃあ、金曜空いてる?」

かすみ「金曜日は空いてるけど…」

セイヤ「じゃあ、金曜の時間は〜、何時くらいが大丈夫?」

かすみ「えーっと、仕事終わって家着くのが17時半くらいだから〜。」

セイヤ「じゃあ19時にお店の前でっ!」

セイヤ「それじゃー!」

かすみ「あっ、」


まだ行くって言ってないのだが、勢いに流された感じで。

突然の誘い。

人生初の男性と二人きりの食事。

訳が分からず家まで走った。

考えても想像もつかない。

相談する友達もいない。

困った。

今日は水曜、明後日が金曜なのでもう時間もあまりない。

明日散歩で偶然会わないか?

そしたら断れるのに。

でも、行ってみたい気もする。


…あっ!着てく服。


そう、かすみはほとんど出歩く事もないので服は全然持ってない。


…そうだっ!


ダンスの奥から1枚のスカートを出す。

去年職場の人の妹が服屋をやることになったから、オープンの時に付き合いで買ったスカートだった。


…でも、上に着るのがない。


そして木曜日の夕方。

仕事帰りにスカートを買ったお店へ。


店員「いらっしゃいませ。」


…あっ、あの時の妹さん。


とりあえず上に着るものを探す。

平日ということもあり店内にはあまりお客さんもいない。


店員「なにかお探しの物ありますか?」

かすみ「あのっ、スカートの上に着るのでなんかないかなと思って。」


一応去年買ったスカートの写メを撮ってきたのでそれを店員に見せて。


かすみ「これに似合うやつを。」

かすみ「よくわからなくて。」

店員「あっ、これっ!?」

店員「うちの店で去年オープンの時においてたやつ。」

かすみ「えっ?わかるんですか?」

店員「これ、海外から買いつけたやつなんです。多分他に取り扱ってるとこないはず。」

かすみ「あっ、去年職場一緒の…」

店員「あっ!お姉ちゃんの会社の。」

かすみ「はい。」

店員「それなら私が責任もってあのスカートに似合う服コーディネートしますっ!」


服屋さんで働いてるのもあるけど、すごくおしゃれで、すごくかわいい。

似たような歳だと思うが。

自分は絶対こうはなれない。

そう考えながら。


店員「これっ、どうです?」

かすみ「素敵ですけど、私似合わないし。」

店員「えっ?似合うと思うけどなぁー。」

店員「とりあえず合わせてみましょう。」


試着してみることに。


かすみ「やっぱり私…」

店員「あのっ、メガネ外してみてもらっていいですかー?」

かすみ「あっ、はい。」

店員「やっぱり〜。」

かすみ「えっ?」

店員「嫌ならいいんですけど、髪ほどいたりできますか?」

かすみ「あっ、全然大丈夫です。」

店員「うんっ!間違いない!」

かすみ「なにがですか?」

店員「あなたは美人を隠してるっ!」

かすみ「えーっ、私、美人じゃないし、地味だしっ。」

店員「メガネ外して、髪ほどいただけで、ほとんどお化粧しなくてこの可愛さ。」

かすみ「そ、そんな事今まで一度も言われたことないです。」

店員「もしよかったら、服以外でもアドバイスしましょうか?私にできることなら。」

かすみ「えっ、いいんですか?」

店員「そーだ。今日19時以降って時間ありますか?」

かすみ「えっ。はいあります。」

店員「じゃあ、お店の前で待ち合わせでいいですか?」

かすみ「はい。」

店員「じゃあ、また後でっ!」

かすみ「あっ、はい。」


よくわからない感じで店員さんと約束をしてしまった。

でも、色々服の事とか聞きたい気がするので良かったような…。

約束まで1度家に戻る事に。

突然の女の子との約束。

最近は多いな。

突然っていうのが。

ただ、悪い気はしてなかったのだ。


第5話に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る