16
こんなベタに、思い切りぶつかるなんてことがあるもんだろうか。それも、総務部の水橋さんと。
廊下の角を曲がろうとした時に、山ほどの資料を抱えた美人と、正面衝突だ。
「いたた……」
文字どおり、尻餅をついた水橋さん。僕は手を差し出そうとして、やめた。声高にセクハラが叫ばれる昨今、下手なことはできないと思うのであった。だから僕は、
「大丈夫ですか」そう声をかけるにとどめた。
「ええ、大丈夫です。すみません、山岸さんこそ大丈夫ですか」
「いや、ぶつかったのは僕です。謝らないでくださいよ」
僕は当たりに散らばった山ほどの資料を拾い集める。
「ああ、いいんです、私やりますから」
「いや、手伝いますよ」
集めた紙束を水橋さんに渡す。
どうですか、お詫びにお食事でも。
頭のすみに、一瞬そんな言葉が浮かんだが、立ち消えた。いつの時代の話だ。声高セクハラのこの時代に、僕は。
水橋さんは、拾い集めた資料をまとめながら、元気よく、ありがとうございますと応えた。
「あの、お昼、時間ありませんか」
そう言ったのは水橋さんだった。
「はあ、暇ですけど」
「あの、よければ、どこか食べに行きませんか。お詫びと、お礼を兼ねて」
水橋さんは、そう言って微笑んだ。
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