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「だってさ、京都だよ、京都」

 ヒカリは、ボックス席の向かい側で一眼レフのレンズを俺に向けた。


「すごいなー、きれいなところなんだろうなー。楽しみだなー」

「修学旅行は残念だったもんな」

「そうそう。ホントそう。私さ、入院してたときにさ、サチコからラインが来てさ、ほんっとうらやましいっていうか! もー、悔しくってさ!」


 分かる。あいつはそういうデリカシーのないところが少しあるから。とは言っても、サチコに悪気なんかかけらもないんだけど。


 一眼レフの設定をいじくり回しているヒカリを見て、俺の頭に、ひょっと不安な気持ちが沸いた。


「なあ」

「何?」

「俺で良かったのかよ」

「は?」

「京都。修学旅行のリベンジ、俺なんかと一緒でよかったのか?」


 俺はヒカリの顔が見れなかった。電車の窓の外に、何本も電柱が通り過ぎていった。


「ばか」

 ヒカリがファインダー越しに俺を見る。


「お前がいいんだろ。ばか」

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