16駅目 飯田橋

 また間違えた。私は尽く男運が悪いらしい。彼氏の家へサプライズ訪問したら玄関に女物の靴があった。案の定ベッドの上で彼氏と見知らぬ女が慌てていた。

「い、妹だよ!」

 妹と裸で絡まり合う奴がどこにいるんだよ。


 よくありがちなシュチュエーションに思わず笑う。前の前の彼ともこんなことがあった。なんなら、私が浮気相手だった時もある。急に姉にされた時は驚いた。


 はぁ、どこにいるの。まだ見ぬ運命の相手を探し歩く。


 飯田橋駅の西口を出る。キラキラと光るお堀はよく見ると緑色だが、それでも水に惹かれるのは日本人だからだろうか。モダンな駅にはモダンなカフェがよく似合う。こんなお洒落なところで彼氏とお茶がしたいな、と思うけれど今日はあいにく仕事だ。


 それにしても遅い。私が新人だった時には、集合の15分前には来ていたというのに。約束の時間まで5分をきったが、今年入社したばかりの後輩が来ない。4歳年下ともなると、丁度世代の変わり目らしく、ひどく扱いにくいのだ。最近の私の悩みは、恋と彼だ。


「あ、早いっすね。お待たせしました。」


 なんとも気の抜けた調子でのろのろと近付いてくる。嫌味のように集合時間丁度に来やがった。怒る気にもなれず、2人で取引先へ向かう。


「ほら、ぴしっとして!もうジャケットよれてる!」

「あ、すんません。」


 このやり取りは何回目だろう。それなのに、彼は何故か仕事が出来る。今日もすんなりと取引を済ませることが出来た。


 取引先を出て時計を見る。12時より少し早かったが、このまま会社に戻るのも惜しかったため、お昼を食べることに決めた。


「何食べたい?」

「俺、何でもいいっす。」


 なんでもいいが1番困る。どうしようかとスマホで適当に探すが、お店がありすぎてわからなくなる。


「あ、俺オススメのとこあるんすけど、そこ行きます?」


 それなら早く言ってよ!

 彼の後ろをスタスタとついて行く。神楽坂方面に向かっているようだ。意外と身長高いんだな。


「ここです。」

「ちょっと待って!ここ高いんじゃないの?」

「あー、大丈夫です。」


 一軒家を改造したような和テイストのお店に入る。中庭もあり、小さな枯山水とししおどしが良い雰囲気を醸し出していた。メニューも全て和風で、甘味がメインのようだ。ランチメニューは、おばんざいのみ。それでも、目にも体にも優しそうな食べ物が写真に写っている。それぞれ好みの物を注文し、待つ。


 会話はない。彼は私に気を遣うつもりはないらしい。ただ、この沈黙が終わったばかりの恋の傷を癒してくれる。


 ゆったりとした時間の中、微睡んでいると、おばんざいが運ばれてきた。早速、口に入れると、思った通りとても優しい味がした。


「癒される…。」


 思わず声に出してしまう。彼は何も言わないが、少し得意げに微笑んでいた。認めたくはないが、なかなかセンスがいいじゃない。


 全て食べ終え、さて午後からも頑張りますか、と駅へ向かう。


「ちょっと寄り道して行きません?」

「仕事中でしょ!」

「いい所あるんすよ!ちょっとだけ!」


 先程、センスの良さを見せ付けられたため“いい所”に行ってみたいと思ってしまった。


「本当に少しだけよ。」


 渋々ついて行くという風に答えたが、内心とても楽しみだった。


 着いたのは、東京大神宮だった。神社かい。少し期待はずれだったが、ここまできたら願掛けしていくしかない。


「ここ縁結びの神様なんですよ。先輩、今日元気ないから。」


 彼を見上げる。気遣ってくれたの?


「彼氏にでも振られたのかなと思って。沢山願掛けた方いいっすよ!」


 余計なお世話だわ!少しキュンとした時間を返して欲しい。


 一緒にお参りをして、おみくじをひく。


「俺、大吉だ!先輩は?」

「私は小吉。」


 おみくじには相性の良い人の特徴が書かれてある。


 歳は3、4歳差が良い。

 星座は射手座が最高。

 血液型はO型かB型が良い。


「ねえ、丹波くん何月生まれの何型?」

「俺は12月4日生まれのB型っすよ。」


 少し長い前髪で隠れた目は、くしゃっと笑うと可愛く見えた。私の悪い癖が出る。


 また間違えそうだ。

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