明け年

どうした?


少し例年よりも冷え込んだ大晦日の夜に

目覚めた私は

そっと布団から抜け出た。


ごめん、起こした?

ああ、いいよ。


ファンヒーターのスイッチを

入れると

瞬く間に温まる部屋。


おいで。

いつの間にか、フリースの茶色い毛布を抱えた

あなたは私の後ろに座っていた。

ありがとう。

私は仔猫のように

あなたの広げた毛布にくるまる。


苦いタバコの香り。

竹のような体臭を放つあなたの

香りに包まれて

微睡む時間……。


ここが好き。

ああ? ずっとこのままでいいよ。

明日は元旦だから、このままで。



あなたの胸の中に包まれていた。

私の一番幸せだった時間。



もう、あの香りを思い出すこともできない。

今年の年越しも冷たいシーツと布団を

涙に濡らす。


どこを探しても

あなたは、いない。

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