第18話 人化

「師匠なんてよしとくれよ、そんな柄じゃないよ」


「わかりました」


 ノリで呼んだだけだ、本気じゃない。

 それより、


「ここに居てくれるならどこで寝泊まりしますか?」


 このダンジョンで寝泊まりができそうな所と言えば、ここのボスエリアと温泉施設のロビーと畳スペースぐらいが思い浮かぶ。

 しかし、ボスエリアはどうだろうか?

会って1日も経たない相手と同じスペースで寝たいかと聞かれれば、俺は遠慮したい。


 他には狼だから、平原や洞窟で寝泊まりしても大丈夫なのだろうか?

ゴブリンは洞窟で自由にするって言ってたし。


「できれば慣れるまではあの温泉に泊めてほしい、そして申し訳ないけど食事も用意してくれると助かる、その分はあたしが外に出て獲物を狩って返していくつもりだ」


 確かに、住処だけでなく食事も大事だよな、後でゴブリンとも相談しないと。


「良いですよ、でも食事量によっては多少我慢してもらうかもしれません」


 食事にかかるDPは贅沢を言わなければ少ない、それに俺の前世の私物として引き継いだ食材もあるので琥珀さん達の食事を出しても、無駄遣いしなければしばらくもつ計算だ。

 しかし、その計算は食べる量を人間基準での計算だ。

琥珀さんは馬のような大きさの狼なので食べる量も多いだろう、多少は容認できるが限度はある。

 まあ琥珀さん達がダンジョンにいるおかげで滞在DPが貯まるなら琥珀さんが返してくれると言っている分と合わせて黒字になりそうなので気にならないが。


「食べる量は人化すれば、人並みになるから心配してくれなくていいよ」


 顔に出てただろうか?


「人間の姿になれるんですか?」


「なれるさ、娘の白音だって人間の姿だろう」


 確かにそうだが、てっきり人間とのハーフだったりするのかな、と思い込んでいた。


「人化した方が燃費も良いし、小回りがきいたりして便利なんだよ、身体は少し柔らかくなるけどね。

この姿のメリットは人を乗せて早く移動できるのと、大きなモンスターに力負けしづらいってくらいかね」


 人間の姿の方が狼の姿より良さそうに聞こえる。


「じゃあなんで今は狼の姿なんですか?」


「娘達を乗せてこっちまで来ていたからね、そして狼の姿で大怪我をすると怪我が治るまで人化出来ないのさ」


 なら、怪我が治った今なら人間の姿になれるのでは?


「後、今すぐ人化すると服がボロボロだからね、流石に恥ずかしいからあっちで服を治してから人間の姿を見せるよ、それに人化の説明なしに人間の姿で会っても、あたしってわからないだろう?」


 確かにいきなり知らない人がいたら驚くだろう。

 冷静だと〈観察〉を使って同一人物だと判断したかもしれないが実際にはその余裕があるだろうか?


「たぶん、誰かわからなくて、侵入者が来たって慌ててたかもしれませんね」


 俺はそう返しながら、DPを女性用ジャージセットと交換する。

 琥珀さんには色々動いてもらうため、動きやすい服装の方がいいだろう、それにジャージならばある程度サイズの幅があるはず、流石に見ただけで女性のサイズを測れるスキルはない。

 まあDP交換時にサイズ指定がないから、着た人に自動で合わせてくれるのかもしれないけど。


「それと、これをどうぞ。 動きやすい服装を選んだつもりです」


 琥珀さんにジャージを渡す、半袖、短パン、長袖、長ズボンがセットになったものだ。


「ありがとう、魔王ってなにもないところから服を出せるんだね、すごいじゃないか」


「俺の力じゃなくてダンジョンの力ですよ」


 これからもここにいてもらうのだからと琥珀さんに魔王側から見たダンジョンについて少し説明した。


「なるほどね、いくつかダンジョンについての謎が解けたよ。

ダンジョンの周りに居ないはずのモンスターがいたり、ダンジョンの中では環境が目まぐるしく変わったり、何故か平穏派魔王がダンジョンの中に人間を入れたがったりするって謎があったんだよ」


 ダンジョンで生み出すモンスターは色々いる、規模や周りの環境に合わないモンスターは消費するDPが多くなるが産み出せない訳じゃない。

 エリアも消費が多くなるが多種多様なエリアを配置する事はできる。

 平穏派の魔王は消費するDPを稼ぐ為にダンジョンに人間を取り込む。


 ダンジョン側から見ればわかることも、外から見れば不思議なことに感じるんだな。


「外で狩りをするようになったら、とどめはダンジョンで刺すようにするよ、そっちの方が良いんだろう?」


「ありがとうございます」


 理解が早くて助かるが、その前にダンジョンの防衛力を上げなくてはならない。


「それと、この話は他ではしない方がいいよ。

世界の常識を変える、ダンジョンにいるだけダンジョン側に利益があるなら、それを逆手にダンジョンに交渉する奴が出るだろう」


 確かに、ダンジョンにいてやるから金をくれ。

とか言ってくる輩が出るかもしれないし平穏派と人間が結んでいるという契約もバランスが崩れる事になる。


「気をつけます」


 今後、魔王側としては何気無い情報のつもりが外では重要な情報な事があると意識しなければならない。


ポヨンポヨン


「ん?」


 いつの間にか膝元にスライムが来ていた。


「だいぶ話し込んでいたようだね。

まとめるとあたしはここの用心棒をしながら君を鍛える。

そして君が何か気になったら、あたしの知ってる範囲で答える。

ある程度の防衛力がダンジョンに付いたら、〈レベルストッパー〉の解除方法について知っていそうな友人を紹介する」


「こちらは琥珀さん達に衣食住を提供する。

って所ですかね」


 大体メインのお礼に関する話は終わっていたので、最後にまとめて話を切り上げる。


「娘達に改めて自己紹介をさせたいから、温泉に行かないかい?」


 俺は琥珀さんの提案に乗り、神々の温泉に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る