第19話 自己紹介
「二人とも、今日からここにお世話になることになったよ。
白音、この魔王さんに挨拶をしなさい」
琥珀さんは温泉について娘達を見つけるとここに住む事を説明して、自己紹介を促した。
「わたしは白音、琥珀お母さんの娘です、魔王のお兄ちゃんお母さんを助けてくれてありがとう」
白音ちゃんは元気よく自己紹介をしてくれた、こちらも返そう。
「俺の名前はユウ、このダンジョンの魔王をしてる、よろしくね」
といった後、金髪の子の方を向いた。
しかし
「 」
無言だ。
キョロキョロと周りを見たり、手を握ったり開いたりと、どうしようかと悩んでいる様子は見ていてわかるが、話さない。
「こっちの子はシャルルちゃん、わたしの大切なお友達。
ちょっと今は声が出せないの、ごめんなさい」
白音ちゃんがかわりに紹介してくれる。
シャルルちゃんは声が出せないのか。
「温泉では治らなかったの?」
怪我とかが原因ならば温泉で治るはずだが。
「色々あったのさ、怪我じゃないから温泉では治らなかったようだ」
琥珀さんが答えてくれた。
筆談なんかが出来ればいいのだが、メモ帳と筆記用具じゃあインク切れとかがあるしな。
「あ」
と悩んでいると、ある物を思い出した。
〈ストレージ〉に入れていたはずのそれを取り出す。
「これをシャルルちゃんにあげるよ」
〈ストレージ〉から取り出したのは、砂鉄と磁石のペンで文字や絵がかけるボードの玩具だ、絵を描くスペースの下にレバーがあり、それをスライドさせると描いたものが消える。
これならばインク切れの心配は無い。
シャルルちゃんは使い方がわからない様子だったので、そのボードで
「シャルルちゃん、よろしくね」
と書いて見せた後、下のレバーで消してからシャルルちゃんに渡す。
すると
「こちらこそよろしくお願いします、魔王のお兄さん」
とボードに書いて見せてくれた。
ボードに書かれた文字も日本語じゃない文字で書いていたが〈言語最適化〉スキルのおかげで文章を書き終えたタイミングで日本語に変換された、文章を書き終え俺が目を通したタイミングで読めるようになるらしい。
さっきオレが挨拶を書いたときはわからなかったが相手には同じように見えていたのかもしれない。
「よかったね、シャルル」
と白音ちゃんがシャルルちゃんに声をかけて二人は話し込んでしまった。
その様子を見守っていると
「変わったものを持ってるな、あれもダンジョンの力かい?」
琥珀さんがそう言ってくる。
確かにこの世界には無い物だろう、しかしあれはダンジョンの物ではなく
「あれは、俺の私物ですよ」
昔の玩具を捨てられずにいて、その中の1つがあのボードだった。
昔の人形やブロック玩具、玩具のベルト等も私物に入ってた、どれもこれも想い出の傷はほぼほぼそのままで遊べない破損や消耗だけが直っていた。
ほとんどは電化製品と一緒にウエストポーチに入れてあるが、あのボードみたいに何か使えそうなものは容量についてに余裕があったので〈ストレージ〉に入れている。
「よかったのかい、シャルルに渡して」
「いいんですよ、俺はあれを今は使っていません、それにあんなに喜んでくれたなら、あげたこっちも嬉しいですよ」
琥珀さんはあのボードが俺の私物だった事を気にしているようだが、俺だったら紙とペンで十分だ。
シャルルちゃんはボードをとても気に入ったらしく、白音ちゃんと会話しながら終始笑顔だ、子供は笑顔が一番だな。
と琥珀さんと話しているとシャルルちゃんがこちらに近づいてきた。
「このボード、ありがとございます。
とても嬉しいです、大切にします」
と書かれたボードを見せてきた。
「喜んでくれたならこっちも嬉しいよ」
これである程度、自己紹介も区切りがついたかなってタイミングで
「あたしはそろそろ着替えてくるよ」
と琥珀さんは言って女湯の方に向かった。
琥珀さんを待っている間、俺は白音ちゃん、シャルルちゃんとリバーシをした。
白音ちゃんは目先の駒の数が多いところを取りに来るのでやり易かったが、シャルルちゃんは凄かった。
きちんと先を読んでくるので一手一手悩まされる、経験のアドバンテージで一応勝ち筋は見えているが、一手間違えると危ない。
シャルルちゃんとの対戦は何度も再戦をせがまれて行ったので、思った以上に時間がかかっていた様で、いつの間にか観客が白音ちゃんのほかに、ジャージを着た銀髪美人が増えていた。
綺麗系よりかっこいい系の美人で肩にかかる程度のきれいな銀色の髪をしている。
スタイルは出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。
たぶん、琥珀さんなのだろうが、白音ちゃんくらいの娘さんがいるというには大分若く見える。
琥珀さんもこっちが気付いた事がわかったようで
「わるいね、着替え終わったんだけど、集中してて声かけづらかったんだよ」
「そんなに集中してましたか?」
してただろうな、流石に子供に負けるのはカッコ悪いからむきになっていたんだろう。
大人気ないとも思うがシャルルちゃんが対戦を繰り返すたびにゲームに慣れていき危ない盤面が増えていったので仕方ない。
「琥珀さんもやります?」
「あたしはこういうのは苦手でね、見てるのは嫌いじゃないんだけどね」
トントン
シャルルちゃんが次の手を催促してきた。
そうだ、今はシャルルちゃんと対戦しているんだ、よそ見するのは失礼だった。
「ごめんごめん」
その後は中断したせいで、双方とも集中が切れてしまったので経験の差がもろに出たため、俺が勝った。
あと2.3回対戦したらそのアドバンテージも無くなりそうだが。
すると
「リベンジ希望」
とシャルルちゃんがボードに書いて見せてきた、このような形の集中切れでの敗戦は不本意なのだろう。
言葉が喋れないのと、ボードに書く字が綺麗だったので、おとなしい子だと思っていたが、だいぶ負けず嫌いなようだ。
「リベンジは受けるけど、先にお昼にしない?」
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