第15話 来訪者

「むぐぁ」


 夢の中でひどい目にあって飛び起きた。

 自宅の中で趣味の模型を作り上げ、満足のいく出来に喜んでいたらいきなり海に沈められるというところで目が覚めた。


 俺が起きた反動でスライムが足の方へ転がっていった、やつが顔の上に乗っていたようだ。


 まだ頭が起ききっていないのでコップ1杯の水を飲んで、シャキッとしよう。


ドンドンドンッ


 コップに注いだ神泉水を飲み干し、頭がはっきりすると、ボスエリアの扉が叩かれていることに気づく。


「侵入者か?」


 布団脇に置いてある盾と日本刀を持ち扉の前まで来ると俺なりに用心しながら、扉を開けた。


 すると銀髪と金髪の女の子が入ってきた。

 二人とも12歳位の背格好で銀髪の子は狼のような耳としっぽが生えていて、金髪の子は耳がとがっている。

瞳の色は銀髪の子が髪の色そのままの銀色で金髪の子は赤い色をしている。

二人とも笑えば可愛い顔をしているとは思うがかなり慌てているようで今はその表情は見れない。

 二人の服装は冒険者風のものを着ていたのだろうがボロボロでとても汚れている、銀髪の子については全身血塗れである、大丈夫なのだろうか?


「お母さんを助けて」


 銀髪の子は俺を視界にとらえるとすぐに そう言って俺の手を引っ張った。

 女の子のわりには力が強く、引きずられそうになったが、事情を聞く前に行くのはどうかと思い、踏みとどまった、ことによっては何か持っていったほうがいいかもしれない。


 しかしもう一人の金髪の子にも手を引かれ、子供とはいえ二人がかりで引かれるとついて行くしかなかった。









 二人に連れていかれた先はダンジョンの洞窟エリアの中腹辺りだった、道中で事情を聞きたかったのだが、銀髪の子は早く早くと急かすばかり、金髪の子はなにも話さないのでここに来るまでほとんどなにもわからないままだ。


 だが実はこっそり〈観察〉を使って二人の名前と種族はわかっていた。

銀髪の子は白音といい、種族はプラチナソードウルフ、金髪の子はシャルルという名前で、種族はハーフヴァンパイアだ、しかしスキルレベルの問題か知らないがそれ以上のことはわからなかった。


 そして事情のわかないまま連れていかれた先の洞窟の中腹には大きな狼が横たわっていた。


 〈観察〉を使うと、琥珀という名前でプラチナソードウルフという種族という、たぶん銀髪の子の母親はこの狼だろう。

 しかし、全身血や泥で汚れており、所々焦げたような所もあって元の毛の色がわからない。

下半身には何かで切り裂かれたような痕があり、肉が見えている。

耳も片方なく、しっぽも途中で切れて短くなっているようだ。

 そういった傷が他にもありそれらのほとんどが塞がっておらず、出血している。

 一瞬死んでいるのではないかと思ったが苦しそうではあるが呼吸をしているのでまだ生きている。


「これを飲ませてあげて」


 そう言って〈ストレージ〉からバケツと水筒を取り出し、水筒の水をバケツに全てぶちまけた。

 水筒の中身は体力、魔力が回復する神泉水。

水筒は2つ合わせて3.5リットルあるが狼の身体が大きいので足りるかどうか不安だ、こんなことならポットごと持ってきたかったが、その間なく引っ張られてきた。

 しかし少しでもマシにはなるだろう。


 銀髪の子、白音ちゃんは俺からバケツを受けとるとすぐさま狼ーー琥珀さんの口に流し込んでいった、するとすぐさま出血が止まり、小さな傷は塞がっていった。

 大きな傷は出血は止まったようだがまだ塞がりきってはいないのでまだ油断はできそうにない。


 俺がそれ確認して、一度ボスエリアに戻って神泉ポットを持ってこようかと考えていると、


「あんたは誰だ」


 と琥珀さんが訪ねてきた。

 それを聞き、琥珀さんに目を向けると琥珀さんは意識を取り戻したようで立ち上がろうとしていた。


「傷を治してくれたことには感謝するけど、目的はなんだい?」


 琥珀さんは立ち上がると言葉を続けた、立ち上がりはしたが、まだふらついていた。

 やはり神泉水が足りず回復しきっていないようだ。


「俺はこのダンジョンの魔王をしている、ユウといいます。

傷を治したのはそちらの娘さんに助けるように言われたからです、まだ治りきっていないようですが?」


 子持ちということで琥珀さんは年上だろうから敬語を使う。 

それに相手はかなり弱っていて塞がりきっていない大きな傷がまだ残り、無理をすればふたたび出血しそうなので変異刺激しないほうがいいだろう。


「ドラゴンの傷が短時間でここまで治る方がすごい、とても高価な回復薬を使ったんだろう?。

白音に頼まれたからと言って何も見返りもなくそれを使ったって?」


 その傷、ドラゴンにやられた傷だったんですか。

 

「女の子が困っていたら助けるのは当然の事ですし、こちらとしてはまだ応急処置程度の事しか出来ていないので動けるのなら治療施設の方に案内したいのですが」


 神々の温泉に入ってもらえば失くなっている耳などはともかく、下半身などにある大きな傷は治るはずだ。

 治癒効果のある施設だから治療施設と言った、わかりづらいが嘘にはならないだろう。


「いやーお前さんこんなおばさんを捕まえて女の子って口がうまいねー」



 狼さんはなにか勘違いをしている。



 女の子とは娘さんである白音ちゃんとシャルルちゃんの事を指したのだが?

訂正するのが怖いので、ここは流した方が良いだろう。


 そうやってツッコミを入れたい衝動を抑えていると、


「ありがたい提案だけど、そこまでしてもらうのは悪いね」


 琥珀さんはダンジョンの出入口の方に向いた


「次会う時があったら、その時に恩返しさせてもらうよ」


 琥珀さんはふらふらと歩き始めるが娘達に止められる。


「お母さん、まだ危ないよ。魔王のお兄ちゃんに助けてもらおうよ」


 白音ちゃんがそう言って、続いてシャルルちゃんは首を縦に振る。

 お兄ちゃんって響きいいなー


「だけどね、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないよ」


 この世界にも遠慮というものがあるらしい、いやこの場合は痩せ我慢かな?

こんな命に関わることを中途半端にしてたら寝覚めが悪くなりそうなので俺からも後押ししますか。


「こちらとしても中途半端の治療しか出来てなくって、すっきりしないのでしっかり治療をさせてもらえると嬉しいのですが、それに恩返しどうこうは治ってから交渉しませんか?」


 ここで恩返しやお礼をいらないと言ったら遠慮が加速するだろう。

とりあえず治療を受けてもらうことを最優先で、その後のことは治った後でなんとか交渉しよう、お礼を貰いすぎたらこっちが気を使うし。


「じゃあ、申し訳ないけど、お言葉に甘えさせてもらうよ。」


 琥珀さんは一応納得してくれたので、神々の温泉へ案内しよう。

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