第12話 神々の温泉

「本当にでかいなー」


 扉を通った先とても大きな施設の前だった。

設備管理のメニュー上では大きさがわかってはいたが、実際見るのとではだいぶ印象が違う。


 メニューで見ていた感じではスーパー銭湯位のものかと思っていたが、実際に見ると大きなレジャープールのようだ。

 なぜか入り口は建物の中央からずれたところにある。


 ポヨン、ポヨン


 施設の前でぼーっとしていると、ビザ辺りにひんやりとしたものが当たった。


「ん? ああ、ついてきてたのか。いつの間に?」


 足下に今日のガチャで召喚されたスライムがいた。

神々の温泉が気になるのか、温泉の方に跳ねながらチラチラとこちらを見ている。


ような気がする。


「はいはい、ちゃんと温泉に入るから焦らないで」


 待ちきれないようすのスライムを見て、前世で親戚の子供に振り回されていた感覚に近いものを感じた。


 そうしてスライムに促されて、温泉の入り口まで来たが、そのタイミングでいきなり身体が風邪を引いたかのように重だるくなった。

 いきなりの事で何事かと思ったが、頭のなかに原因が思い浮かんできた。


「〈レベルストッパー〉の『倍加』が切れたか?」


 ダンジョンを広げる前に発動した『倍加』の効果が切れたのが原因のようだ、というよりそれ以外の要因が思い当たらない。

 確認のためステータスを見ると魔力がゼロになっていた、『倍加』の反動のようなもので能力が落ちているのではないかと思ったが、そうではなかったようだ。

 今の身体の重だるさは魔力切れの症状で『倍加』でなくても起こるようだ。

 たしか神様から魔力はゼロの状態では自然回復が極端に遅くなると教えてもらったので、この状態はやっかいだ。


「魔力を消費して『倍加』状態を維持するのか、今のところ効果時間は1時間って感じかな?」


 スマホの時計を確認すると、ダンジョンを広げようとしてから1時間経たない位だった。

恐らく、激しく運動したり、魔法を使ったりすると効果時間は短くなるだろう。

倍率が1でも魔力を消費するのはどうだろうか?


 とにかく、このままだとツラいので、早く温泉に入ろう。

 スライムもこちらに気づかないぐらい温泉に興味津々だ、入り口の扉にペタッと張り付いている


 入り口を抜けると下駄箱が並んでいたが今は誰もいないので靴は脱ぎっぱなしにして、奥に入る。 

すると広めのロビーのようなところに出た、右手の壁には男、女と書かれた暖簾があり、左手には岩、雪等とと書かれた暖簾がいくつかある、奥にも何かあるが、遠くてよく分からない。

 色々と気になるが、今は見ている余裕はないので、すぐに男湯の暖簾をくぐった。

くぐって短い通路の先には脱衣場があった、服を脱いでかごに入れ、温泉の湯気で曇っているガラスのような扉の先の浴場に向かう。

 扉の先には様々な湯船が見えた。

 とりあえず、選んでる余裕もないので一番近い湯船に掛け湯をしてから入った。

 掛け湯は戦闘では最低限のマナーなので忘れずにする。


「あー生き返るー」


 湯船に入って行儀悪くプカプカと手足を伸ばして浮いている、他に誰もいないからこその贅沢だ。

 少しして余裕ができたのでステータスを確認すると温泉の効果で魔力切れがみるみるうちに回復していくのがわかる、身体の重だるさが解けていくように無くなっていった。

しかし、〈レベルストッパー〉の解除はできないようだ。


 ちなみにスライムは女湯の暖簾をくぐっていたので今は一人だ。


 少しして、魔力が全快した事を確認して、浴場の中を見て回り始めた。


 入り口入ってすぐの壁際のところに普通の銭湯にあるような四角の湯船がいくつかあった、それぞれ温度が違うようだ。

 その向かいには身体を洗うためのスペースがある、シャワーや蛇口、鏡、桶がセットになった席がいくつも並び、所々にシャンプーやボディーソープ等が固めて置いてある。

 壁にはアカこすりがビニールのような袋に入ってかかっていて、そのしたには回収用の箱があった。

 どうせならと身体を洗い、使ったアカこすりを箱にいれると壁に新しいアカこすりが現れた、ダンジョン施設の不思議機能といったところか。


 奥に進むと電気風呂やジャグジー風呂、薬湯、ツボ風呂、炭酸風呂、等のスーパー銭湯によくある風呂がある区画もあれば、流水風呂、ウォータースライダーのような滝下り風呂、湯船にザブンと波生まれている波風呂、等のレジャープールのような風呂が並んでいる区画もあった。


 そして一番奥にはとても大きな湯船があった、壁に貼られたプレートには大神泉と書かれている。

 今までの風呂とは違いとても広い男湯の幅いっぱいが湯船になっている。

深さは出前から奥にかけて段々と深くなっていく、俺は半分も行かないくらいで足が着かなくなった。奥の方はとても深そうだ。

 一番奥の壁際に滝があり、壁を跨いで流れていた、壁の向こうは女湯があった方向だ。

お湯の温度は滝に近いほど熱くなっていく、一番遠いところでは半身浴にちょうどいい温度だ。

 そして、体力、魔力の上限が上がる効能はこの湯船だけにあるようだ、上昇量は1時間浸かって10ずつ上がるらしい。


 1時間ずっとお湯に浸かるのはきついかもしれないが、体力、魔力が10も上がるのは嬉しい。

1日1時間浸かれば、1年で3650も体力と魔力が上がる。

この計算は前世が基準のためこの世界の1年が365日じゃないかもしれないけどバカにならない上昇ではあるだろう。


 しかし、とても広い湯船を見ると、泳ぎたくなってくるのはなぜだろうか?

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