第11話:妹
天田を追って天田の家を飛び出した俺は、しかしすぐに途方に暮れた。
天田が行きそうな場所の見当がつかないのだ。
「お兄様、こっちです!」
途方に暮れる俺に少し離れたところから手を振っていたのは、美九。
「美九!? どうして……」
なぜ美九が今ここにいるのか。つい、俺は目の前の疑問に気を取られた。
「お兄様をストーキングしていたら……って今はそれどころじゃありません!」
「めっちゃ気になるけど確かにそうだな!」
美九の言う通り、とりあえず、今だけは妹の変態性は横に置いておくべきだ。
「学校に向かってください。お兄様。天田先輩はその途中に」
静かに言う美九に、俺はまた、馬鹿の一つ覚えのように疑問を抱いた。
「なんでわかる」
わかっている。それは逃避だ。
今この瞬間だって、俺は、あいつに向き合うことを恐れている。
「乙女の勘です」
「お前なあ……」
俺の葛藤を知ってか知らずか、はぐらかす美九に俺は頭を抱えた。
「ではこう言いましょう。お兄様と天田先輩の、最も近い思い出の場所は、帰路の途中にあります」
そして、美九はあきれたように、言葉を補った。
「……信じていいんだな」
「身を引く乙女の最後の一念、せめて、私を差し置いて愛しい人が選んだ相手には報われてほしい、ただそれだけの、愚かな端女の想いを、受け取ってくださいませ」
そう告げる美九は、妹でなければ確かに彼女にしたいと思えるような美しい表情をしていた。全く、なんでお前は俺の妹に生まれたんだよ……。
「わかった。じゃあな」
通学路を逆走しようと踏み出す俺の腕を、美九が引き留めるようにつかんだ。
「行ってらっしゃいませ。私はいつまでも、お兄様をお慕いしております。いつか、私のところに浮気しに来てくださるのをお待ちしております」
台無しだよバカ妹。
「それは期待しないでくれ」
俺は美九の腕を振りほどき、今度こそ通学路を逆走した。
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