第21話 お友達と幼馴染

 そして、今日も今日とて、屋敷内にある保育室に通います。


 エリーヌと私の住む部屋から、廊下ですれ違う方々に子供らしく元気に挨拶しながら進んでいき、廊下の角を曲がると子供たちの甲高い声が少し漏れて聞こえてきます。


 の近い子たちが集まる子供部屋です。


 「はぁ、」


 3歳児の年齢不相応な、疲れたようなため息をつい漏らしてしまった。


「ん? どうしたの? ライディちゃん? 好きな子でもいるの?」


 私のため息がエリーヌに聞こえたようだ。だがなぜ、ため息1つで恋愛の悩みと言った発想になるのかが、今一わからないけどね。


(まぁ、ここは適当にはぐらかすか)


「ん? どうしたの? お母さん?」


「ライディちゃんに好きな子が出来たのかなぁ~って思ってぇ」


 ん? いいえ。的な返しを期待したが、的外れな話題を掘り下げられてしまった。ここは素直に答えておくのが吉な気がする。


「いないよ~? あ! お母さんのことが好き~!」


「ッ!? あぁ、ライディちゃん、私も大好きよぉ~!」


 エリーヌがそう言いながら嬉しそうに、私の頭をなでてくれる。


(よし! 子供らしい、いい感じの返しが出来た!)


 内心ガッツポーズしながらエリーヌのなでる手にライディは自分の頭を寄せる。なんだかんだ言って、母親になでられるのは好きなのだ。


 そして、エリーヌが頭をなでるのをやめ、「じゃあ、お仕事してくるねぇ~」と言いながら、ライディを置いて保育部屋のドアから離れていく。


 ライディはお腹が大きくなったエリーヌが廊下の角を曲がるまで眺め、一人になると、保育部屋の子供たちの声がより一層聞こえるようになった気がする。


「ふぅ、今日も頑張ろう……」


 ただ、保育部屋に行くだけなのに、こうも私が覚悟を決めたような雰囲気になるのには理由がある。

 その理由の1つが子供たちとの精神年齢の差のせいか、子供たちとの会話や遊びが異常に疲れることだと思う。


 初めのうちは良かった。


 子どもらしい遊びや会話に触れていると心が洗われていくような、微笑ましいような感じがして良かったのだ。


 ただ、子供の思考の奇天烈さや、言動は時に心臓に悪いこともあって……。それが毎日のように何らかの問題を引き起すのにもう――


「あ、ディだぁ~!」


 私が保育部屋の扉の前で黄昏ていると、扉が開き、その扉を開いた張本人が私を指差し、子供らしい甲高い声を上げる。


 彼はダリル・ヘルサイト様(3歳)で、このヘルサイト家の嫡男である。見た目は金髪碧眼で、子供らしい人懐っこく愛らしい笑顔が可愛い男の子だ。……ちなみに、ほぼ確実に腹違いの弟である。ダリルは正妻の子で、少し先に私が産まれたことで私の母、エリーヌが彼の乳母として育てた(授乳させていた)。


 その為、私とダリルはほぼ供に育ったと言っても過言ではない。まぁ、ありていに言うと、幼馴染というやつだ。……多分。


「あ、おはよう。ダリルくん」


「ディ! おはよう! 早く来てよ! 今日、一番来るのが遅かったディが死神な!」


 ――バタンッ! 


 と、言いたいことを言って、扉を勢いよく閉めて部屋に戻るダリルくん。どうやら、今日も死神ごっこ(鬼ごっこ)の死神役(鬼役)は私らしい。


 私がまだ部屋に入ってないのに、扉をわざわざ閉めて、何のために出てきたのだろう?


「みんな、おはよう~」


 とりあえず、部屋に入って朝の挨拶を済ませる。そして、部屋内を見渡す。


 私を見ながらそわそわと落ち着きのないガキ(ダリルくん)と、もう二人の男女(両方4歳)は木の棒を柔らかい何かで包んだ剣の玩具でお互いを叩き合って……遊んでいる。


 剣の玩具で戯れている男の子はマイクくん(4歳)で、容姿が茶髪碧眼で顔や体のあちこちに青あざが出来ている。……遊びが思いのほか激しいのかもしれない。まぁ、男の子らしい子だ。


 もう一人剣の玩具で遊んでいる女の子がダリルくんの姉(正妻の娘)でオルティナ様(4歳)、通称ティナと愛称で良く呼ぶ。その容姿は金髪碧眼でダリルくんの縁者だろうとすぐに分かる容姿をしている。


 見た目はそのまま美幼女なのに、もう既にSっ気が見え隠れしており、かなりアグレッシブかつ勝気な性格で剣の玩具を持たすと手に負えなくなる子だ。因みに彼女の顔や体に青あざなんてものは存在しない。


 さっきマイクくんととしたが、ティナが一方的にマイクくんをボコって……いたぶって……いやいや相手をしている。


 朝っぱらから本当に元気なことだ。マイクくんに心の中でエールを送る。


「ラ、ライディ! 早く、死神ごっこを~ッ……痛い!?」


 マイクが早くチャンバラごっこを終えようと声をかけて来るが『バシッ!』っと頭を叩かれて涙目になっている。


「マイクくん、たたかいの、とちゅうで、気をぬくと、しぬんだよ!」


 バシバシ叩きながらティナが宣っております。


 マイクくんに出来た隙を逃さない、お姉さま。流石です。


 お? 関心したまま放置してたらマジでマイクくんが逝ってしまう。そろそろ止めよう。


「ティナお姉ちゃん? おはよう。今日も元気だね」


「ディ! おはよう? きょうもディが、しにがみなの? きょうはかわってあげようか?」


「ティナお姉ちゃん、ありがとうね? でも今日も頑張るの!」


 本音はティナに死神なんかさせたらすぐに皆捕まって、チャンバラごっこが再開されると困るから断っているだけだ。

 はっきり言って、この保育部屋内の子供たちの運動能力の高さで言うと私がダントツで最下位だ。そんな私がティナのチャンバラごっこなんかしたら、死んでしまいかねない。


 なので、私はなるべく死神ごっこの死神役を引き受けるために、わざわざ遅れてやってくるのだ。まぁ、そのせいでいつもマイクくんが朝っぱらからボロボロにされるんだけどね。


 ダリルはダリルでなんだかんだ強いため、マイク程ボコボコにはされていない。さっき、扉を開けたのもティナから逃げる為だったのではないだろうか? と、言うよりも、さっきまで2体1で均衡を保っていたのでは? ダリルが逃げたことで、マイクくんがしのぎ切れなかった分のダメージを負っているような気がする。


 ……おっと、これ以上放置してはマイクくんが可哀そうだ。


「死神、ライディ! 押してまいる!」



 クラウチングスタートの態勢を取るように、しゃがみながら宣言する。




 ――――今、気づいたが、3歳児って、クラウチングスタートの態勢取るとめっちゃ飛び出しにくいな!

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